夫婦間不純ルール
「麻実ちゃん、今日は顔色が良くないけどもしかして体調悪いの?」
「そんなことないですよ、今朝は天気が悪いからですかね」
朝礼を終えてすぐ私を呼び止めた久我さんは、そのまま普段使われていない予備の診察室へと引っ張っていく。強引なところがあるのは知っていたけれど、今日はいったいどうしたというのだろう?
そう思っていると……
「そんな表情と顔色で、何ともないなんて有り得ないでしょう。そりゃあ全部話しなさいなんて迫るつもりはないけれど、無理するなくらいは言わせなさいよ」
「久我さん……」
どうやら無理をしていることも彼女にはバレバレだったらしい、少し怒ったようで拗ねた表情の久我さんを見て心が軽くなっていくのを感じた。話さなくてもいい、だけど心配させろなんて本当に久我さんらしくて……
同じことを私なら言えるだろうか? 理由も分からない相手の苦しみだけを分かち合おうとするなんて、そう簡単なことではないのに。
「同僚の立場ってもどかしいの。親友ならば口を出すことが出来ることでも、この距離感だとそうはいかない。でも放っておくのも嫌で、こんな中途半端なことしか言えないから」
久我さんがそんな風に考えていたなんて。いつも上手な距離の取り方で、周りを不快にさせない彼女だからこその悩み。でも、それは決して嫌なものではなくて。