夫婦間不純ルール
仕事をしている間は無心になれる、それが忙しければ忙しいほど余計な事を考えずに済むから良かった。今日は比較的に患者さんが多い日で、慣れない新人のサポートに回ることも何度かあったから。
そんな一日の仕事を終えて、いそいそと帰り支度をする同僚たちを横目に小さく呟いた。
「まだ帰りたくないな……」
「じゃあ、私と飲みに行きましょうか! この前は麻実ちゃん途中で帰っちゃったしね」
いつの間にか隣に立っていた久我さんが、嬉しそうに声をかけてきてくれた。きっと今朝の事をまだ気にしてくれてたに違いない。
必要以上の深入りをせず、一定の距離を崩さないでくれている彼女とならそれも良いかもしれない。そう思った私は、久我さんの誘いに乗ることにした。
「久我さん、本当にいいんですか? 誰か家で待ってたりとか……」
「そうね、でも妻だろうと母親だろうとたまには息抜きくらいしてもいいと思わない? 私たちはれっきとした一人の人間なんだから」
笑顔でそう話す久我さんに、私も同じなんだと気付かされる。岳紘さんの妻である前に、私は麻実 雫というたった一人の……
「自分の気持ちを優先したい時があってもいいんじゃないのかしら? 誰かのためばかりじゃ、ちょっとだけ息詰まっちゃうもの」
「確かに、そうですね……」