夫婦間不純ルール
「私の方が奥野君の話を聞く余裕もなかったのよね、これでも先輩なのに格好悪い……」
あの日は彼から逃げるように帰ってきてしまったが、今度はきちんと謝ってお礼を言うべきなのかもしれない。あんな時間にわざわざ来てくれたのだ、私の事を心配して。
それにどれだけ心が救われたか、ちゃんと伝えることも出来ていなかった。自分の余裕のなさが今更ながらに恥ずかしくなる。
「もう一度、会いに行こうかしら」
どうせ今度の土曜も岳紘さんはきっと私を避けるために休日出勤でもしているだろう。そう考えれば、わざわざ家で大人しくしているのも馬鹿らしく感じて。
もし奥野君が私に会いたくなければ喫茶店に入らなければ済む話だろうし、一人だったとしても気分転換だと思えば気が楽だ。
お互いの連絡先を知らないから気軽に会えないが、私たちにはその方が良かったと思う。頼りきりになることも、泣いてばかりの弱い自分を見せなくて済む。
「……今度は奥野君の弱みを吐かせるのも良いかもしれないわね」
なんて、きっと彼は強がって話してはくれないだろうけれど。それでも気晴らしになれればいいか、なんてこの時は少し楽観的に考えていて。
その日を境に私と岳紘さん、そして奥野君の関係が大きく変化してしまうなんてこれっぽっちも想像していなかった。