夫婦間不純ルール
Rule 9
「雫? 珍しいな、今日はどこか出かけるのか?」
「……ええ、ちょっと麻理と約束があって。そういう岳紘さんは今日はずっと家にいるの?」
奥野君に会いに行こうと決めていた土曜日、休日出勤でもして絶対に家にはいないと思っていた岳紘さんから声を掛けられた。どうしてこういう時に限って彼の方から歩み寄ろうとしてくるのか、タイミングが悪いとしか言いようがない。
私も彼に合わせれば良かったのに、ずっと放っておかれた悔しさからか素直にそうする事が出来ずにいた。
「ああ、今日はそのつもりだった。だが君が出かけるのなら、俺は少し散歩にでも行くよ」
「そう、気を付けてね」
昼食を用意しておこうかと夫に尋ねたが、どこかで食べてくるからいいと言われたのでそのまま家を出て喫茶店へと向かう。
タクシーで向かった前回とは違い、駅まで歩きそこから電車に揺られながら奥野君に何と話しかけるかを考える。この前はごめんね、と謝るのが良いだろうか? それとも何もなかったように、元気だった? と笑顔で隣に座ってみようか。そんな事を何度も何度も繰り返し考えているうちに、目的の駅に到着する。
「奥野君がいなくても、気晴らしになるから大丈夫……」
本当は彼にこの店で私を待っていて欲しい。でも私を避けるために喫茶店に来てなかったら、それはそれでショックなのでそう自分に言い聞かせておく。その方がダメージが少なくて済むから。
でも、それは杞憂だったようで……