夫婦間不純ルール
「先輩、覚えてます? 俺が入学したてだった頃、一番に声をかけてくれたのが雫先輩だったって話。あの時は先輩、全然覚えてないって言って笑ってたんですけど」
「そういえば、そんな事も言ってたわね。それがどうかしたの?」
入学したばかりの奥野君が私と同じ部活に入部して、しばらく経ってからだっただろうか? いきなり部活が終わった後に、彼からおかしなことを言われたのは。
あの時も真っ直ぐな瞳で私を見つめて、恥ずかしげもなくこんな事を言い出したのだ。
「雫先輩は俺の憧れです! 明るくて真っ直ぐで、向日葵のような人だって。俺もいつか先輩に頼られるような良い男になって見せますから……って、今思えば結構恥ずかしいこと言ってましたね」
「……そうかしら、十分いい男になったんじゃないかな奥野君は」
奥野君が私に伝えたい事も今なら分かる。あの時一方通行な想いを抱いていた私にも、同じことを言いたかったのかもしれないけれど。
それに気付きもしなかったのは、あの頃の私は自分で思っているよりも周りが全然見えていなかったのかもしれない。
「なら、頼ってくれますか? 今度こそ、俺を」
「それは……」
答えなんて出てこない、自分の気持ちだってあやふやなのに奥野君の質問はあまりに難しくて。そして彼だって気付いてるはずだ、私がそう簡単に首を縦に振れない性格だという事も。