夫婦間不純ルール
「本当に頑固ですね、雫先輩は。そんなに一人で頑張らなきゃいけない理由ってありますか?」
「無いのかもしれないわ、だけど……」
奥野君から見ても私が意固地になっているだけだと分かるのだろう。誰かに話して助言をもらったり協力してもらった方が良いことは明らかで。
それでもその話を詳しくするという事は、私が夫に一度も女としてもらえなかったことまでも言わなくてはならなくなる。本音を言えばそれが、何よりも辛い。
結婚して一年、ずっと好きだった相手と結ばれたはずなのにそれは表面だけで。私と岳紘さんは心も身体も結ばれないままなのだから、ただ初夜の夜だけが例外なだけ。
「雫先輩を困らせたい訳じゃないので強制はしません。だけど俺は先輩の味方でいつでも力になるつもりだってことだけ、覚えておいてください」
「分かったわ」
最後まで強引に自分の意見を押し通すかと思ったが、奥野君は意外とあっさりと引いてくれた。こういう時自分の意見を曲げようとしないのは、彼ではなく夫の岳紘さんの方だった。
……ルールの事も、それ以外の夫婦の取り決めも。こんな風に私の気持ちを尊重してもらえたのは久しぶりかもしれない。
いつの間に私は、夫に対してこうも自分の本音を言えないようになっていたのだろう? そんな事を考えてボーっとしていると。
「……雫先輩、どうしました?」
「え、ああ。何でもないの、ごめんなさい」