夫婦間不純ルール
声をかけられて自分がまた岳紘さんの事を考えてしまっていることに気付かされる。今日は奥野君の悩みを聞き出そうと張り切ってここに来たのに、結局は自分の事でいっぱいいっぱいになって。
私以外の女性を愛している夫なんてどうでもいいと思いたいのに、そう出来ない事にまた苦しんでしまう。そんな自分自身が嫌なのに……
「そんな本音で話せないような男のどこがいいんです? 俺に対するみたいに、全部ありのままの雫先輩でぶつかればいいのに」
「そんなことしたら、夫に嫌われるかもしれないもの」
そう言った自分にハッとさせられる、こんなにも私は岳紘さんに嫌われることに怯えているのかと。だけど私が驚いた以上に、奥野君はその言葉が意外だという顔をしていた。
そんなに私らしくないことを言っただろうか?
「そうかもしれないですね、俺も……そうなのかもしれません」
「奥野君もって、それは奥さんに対して?」
彼が驚いた表情をした理由は私が原因ではなく、彼の奥さんとの事だったようで。もしかしたら奥野君は私と同じように相手に嫌われるのが怖くて、本音で話せなくなっているという事なのかもしれない。
夫には本音で話せないのに、奥野君には言いたい事が言える私。そして私には人懐っこい笑顔で行為を伝えてくるのに、奥さんにはそう出来ない奥野君。
だとすれば私たちは、とても似ているのかもしれない。相手との距離もその複雑な夫婦関係も。