夫婦間不純ルール

「……俺の奥さん、ちょっと特別な人なんですよね。自慢の妻と言えばそうなんですけど、夫婦としては色々と複雑で」
「そうなの?」

 今まで奥野(おくの)君が奥さんの事について話そうとしなかったのは、そういう理由があったから? ハキハキとモノを言う彼にしては珍しく歯切れの悪い話し方だった。
 でもそのことについて相談しようと思ってくれたのが嬉しくて、私は黙って彼の話の続きを聞くことにした。

「奥さんは仕事に生きているような女性で、結婚前も俺たちは恋人同士というより協力者みたいな関係でした。それは結婚後もあまり変わらなかったけれど、妻が仕事で成功するとどんどん忙しくなって」
「奥さんは、どんな仕事を?」

 私が思っていたのよりも奥野君の夫婦関係は複雑なようだった。協力者のような関係だったと言いながらも、結婚に踏み切ったと言うことは少なくとも奥野君には奥さんに対する愛情はあったはず。
 それなのに、どうして……?

「カリスマヘアメイクアーティスト、だそうです。時々テレビなんかにも出たりしているみたいですけど」
「……そう、なんだ」

 自分の妻がテレビに出るのはどんな気持ちがするのだろう? 少なくとも今の奥野君の表情からは喜びや嬉しさという感情は見られない。
 ……話を聞いていて何となく想像がついた、奥野君はきっと寂しいのだろう。


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