夫婦間不純ルール

「私もね、いい機会かと思ったの。このまま一人で生きていくのか考えた時、自分を想ってくれる誰かが傍に居てくれた方が幸せなんじゃないかって」
「自分を想ってくれる、誰か……」

 麻理(まり)のその言葉が妙に胸に刺さった、私には傍に居てくれる夫がいるけれど彼は私を想ってはいない。その虚しさを私が一番よく分かってるつもりだったから。
 そのせいかもしれない、麻理と見たこともないお見合い相手の未来を自分達夫婦と今と重ねてしまった。

「麻理はその人を好きになるつもりはあるの? それとも相手に想われるだけで満足して、別の人を好きなままでいるの?」
「……(しずく)? どうしたの、急に」

 これは私の問題じゃない、麻理が決める未来だと分かっているのにどうして我慢できないのだろう? だけど自分と同じように傷付く人を、麻理には作って欲しくない。そんな思いを抱えて俯くと、麻理が私の肩に手をのせてくる。

「聞いて、雫。私は見合い相手の男性も好きになるよう努力するし、今想ってる人も好きで居続けるわ。だって恋する気持ちや愛情の形が一つだけとは限らないもの」
「好きになる、努力……」

 麻理らしい答えだった、初夜の後に私を愛せないとハッキリ告げた岳紘(たけひろ)さんとは違う。もし岳紘さんがあの時の私にも同じように言ってくれていたら、そう思わずにはいられないくらいに。


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