夫婦間不純ルール


「そう。相手が私を想って一緒になりたいって言ってくれてるからって、それを当たり前だと思ってはいけない。もしどうしても恋愛の好きにならなかったとしても、彼の事は家族として愛せると思っているから」
「家族として愛するって?」

 思わず聞いてしまったが、麻理(まり)は優しく微笑んで続きを話してくれた。彼女の考えと恋愛に対する価値観、そして二人が思い描く未来図も。

「家族愛、それも愛情の一つの形じゃないかしら。男女の繋がりだけじゃなく、これから先を共に生きる相手と互いを必要としあえる関係。そんなのが理想的なの」
「……そうなのね、麻理の描く未来はとても素敵だと思う」

 私と岳紘(たけひろ)さんは一度でも同じ未来を思い描いたことがあっただろうか? 今考えれば私の勝手な独りよがりに、夫が付き合わされているだけだったのではないかと思う。
 だって、私は今までに一回も彼から将来についての話をされたことがない。そう『夫婦間不純ルール』で取り決めた二人のこの先について以外は。

「ねえ、(しずく)。夫婦の愛は夫婦の数だけあるとよく聞くじゃない? 私もそれでいいと思うの、雫と岳紘さんには二人にしか分からない夫婦の愛があるかもしれない。だから……」

 頑張って、と麻理は小さな声で私に囁いた。もしかしたら彼女は私と岳紘さんが上手くいってないことに気付いていたのかもしれない。それでも余計な口を挟まずにいたのは、私を気遣ってなのだろう。
 親友の前でも強がっていたがる、そんな見栄っ張りな自分の為にきっと……

「さてと、そろそろ帰らなきゃね。あまり遅くなるとまた岳紘さんからメッセージが来ちゃうから」
「え、何のこと?」

 そんなの彼からは聞いてない、そう思って麻理を問い詰めたがあっさりと躱されて。「自分で聞いてみたら」と楽しそうに笑いながら、彼女はさっさと帰って行ってしまった。
 聞けるわけないじゃない、と思いながらもそれはしばらくの間私の胸に引っかかったままだった。


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