夫婦間不純ルール

(しずく)の都合が悪ければ断ってくれてもいい、その場合は妹にでも代役を頼むから。最近はよく週末も出かけてるようだし、君も忙しいんだろう?」
「私の代わりを優亜(ゆうあ)さんに? 彼女を貴方の妻として連れて行くって意味なの?」

 そんなこと出来るはずがない、優亜さんは岳紘(たけひろ)さんと兄弟だとすぐわかるほど似ているし誤魔化せないだろう。それともそこまでして、他の人に私を妻として紹介したくないという事なの?
 彼の言葉が何故だか私を否定しているように聞こえて、悪い考えが頭の中でグルグル渦巻いてくる。出口が見つからないような気がして、それがとても苦しい。

「そんなわけないだろう? ただ、俺は雫に無理してまで参加させる気はないってだけで……」
「じゃあ参加するわ。だって、無理なんてしてないもの」
「雫? 本当にいいのか」

 戸惑ったような表情で岳紘さんはそう聞いてくるけれど、私に迷いは無かった。だって、妹を代理になんておかしいとしか思えない。本当は夫が愛しているという女性をパートナーとして連れていく気なんじゃないかと疑ってしまう。
 そんなことは絶対にさせない。岳紘さんの妻は……私なのだから。

「大丈夫、営業部長さんにもよろしく言っておいて」
「……ああ、分かった」

 まだ岳紘さんは驚いている顔をしていたが納得したように頷くと、片手にスマホを持って外へと出ていく。時計を見ればそろそろ22時、いつもの電話の時間になっていたみたいで。
 夫は最初のようにコソコソすることもなく、堂々とスマホを持って外に出ていくようになって。その姿を見て傷付かない振りをするのが、今の私に出来る精一杯だった。


< 99 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop