夫婦間不純ルール
「雫の都合が悪ければ断ってくれてもいい、その場合は妹にでも代役を頼むから。最近はよく週末も出かけてるようだし、君も忙しいんだろう?」
「私の代わりを優亜さんに? 彼女を貴方の妻として連れて行くって意味なの?」
そんなこと出来るはずがない、優亜さんは岳紘さんと兄弟だとすぐわかるほど似ているし誤魔化せないだろう。それともそこまでして、他の人に私を妻として紹介したくないという事なの?
彼の言葉が何故だか私を否定しているように聞こえて、悪い考えが頭の中でグルグル渦巻いてくる。出口が見つからないような気がして、それがとても苦しい。
「そんなわけないだろう? ただ、俺は雫に無理してまで参加させる気はないってだけで……」
「じゃあ参加するわ。だって、無理なんてしてないもの」
「雫? 本当にいいのか」
戸惑ったような表情で岳紘さんはそう聞いてくるけれど、私に迷いは無かった。だって、妹を代理になんておかしいとしか思えない。本当は夫が愛しているという女性をパートナーとして連れていく気なんじゃないかと疑ってしまう。
そんなことは絶対にさせない。岳紘さんの妻は……私なのだから。
「大丈夫、営業部長さんにもよろしく言っておいて」
「……ああ、分かった」
まだ岳紘さんは驚いている顔をしていたが納得したように頷くと、片手にスマホを持って外へと出ていく。時計を見ればそろそろ22時、いつもの電話の時間になっていたみたいで。
夫は最初のようにコソコソすることもなく、堂々とスマホを持って外に出ていくようになって。その姿を見て傷付かない振りをするのが、今の私に出来る精一杯だった。