君死にたまふことなかれ
26.召喚命令
「心神喪失により精神科へ入院中、面会謝絶・・・・・自殺・・・・・麻薬依存症により家族や近隣住民に暴力を振るい、数回の逮捕歴あり、最終的に家族から見放されて今はスラムの住人と化している・・・・・・」
私はジョシュアのこともあり、他の戦友がどうなっているか気になって自分なりに調べてみた。
普通に暮らしている人もいるが、中には私のように普通に暮らせてはいるが睡眠障害が出ている者や既に命を絶っている者やジョシュアと同じように犯罪者になってしまった者までいた。
麻薬依存症になってしまった者は戦争の恐怖が終戦後も抜けきれず、その恐怖から少しでも逃げようとして麻薬に手を出してしまったようだ。
私は調査結果が書かれた書類を机の上に放り投げて天井を見上げた。
「どうしてこんなことになってしまったのだろう」
ただ死にたくなかっただけ。
ただ生きて帰りたかっただけ。
家族に、愛する者たちに会いたかっただけなのに。
誰もこんな末路を望んだわけではなかった。
「私も同じ末路を辿るのだろうか」
明日は我が身と言うように、彼らと同じ末路を辿ってもおかしくはない。
同じ恐怖心に長期間晒され続けたし、人もたくさん殺した。たくさんの仲間を失ってきた。私と彼らの違いに大差はない。そう考えると恐ろしくて仕方がなかった。
誰かを傷つける前に、ルーエンブルクの名を傷つける前に自らの手でこの命を終わらせた方がいいのではないかとさえ思ってしまう。
そう思って乾いた笑みが私からこぼれた。
「何のために生き残ったのか」
こんな末路を辿るために生き残ったわけではないのに。
「お嬢様、王家より召喚命令が来ております」
家令が持ってきた封書には確かに御名御璽が施されていた。
「内容は?」
「それが」と言い淀む家令に一緒に入ってきた不機嫌顔のエリックがため息混じりに答える。
「王女が孤児院の視察に同行したことがあったろ。その時、何かあったのか?」
王女の世間知らずぶりが明らかになったわけだけど、そういえば王にこの横暴を報告するとか言ってたな。
行動を起こしたのか。つまり、あの視察は全くの無意味。時間を無駄に浪費しただけか。関わると碌なことないな。できれば、ずっと無縁でいたいけど向こうが関わってくるし、公爵位を賜った以上は無縁ではいられないな。
「孤児院の子供が着ている服をボロ切れだとか、大部屋ではなく一人一部屋にしろとかの要望を断り、さらにはなぜ使用人を使わないのかという質問も出てきたから孤児院の視察を中断させた」
私の回答に家令もエリックも開いた口が塞がらないようだった。
「待て、待て、待て」
エリックは頭を押さえて、今私が言ったことを必死に整理しようとしている。
「使用人?一人一部屋?どこに視察へ行ったんだ?下級貴族の屋敷にでも行ってきたのか?」
「孤児院だ」
「お嬢様、ボロ切れというのは?」
「平民が来ている一般の服のことだ。王女様曰く、王都のブティックで仕立て直せと」
「訳が分からん」
エリックのように私もそう叫びたい気分だ。
「全て却下したら、まさか召喚命令が来るとはな」
「どのような理由であれ従わねばなりません。お早く準備を」
「ああ」
家令に促されて私は重い腰を上げた。
「エリック、万が一の場合はルーエンブルクを頼む」
「不吉なことを言うなよ」
あり得ないと言いたげな顔をするエリックに私は苦笑で返した。
世間知らずな王女、その王女をどこまでも甘やす王家。
万が一が起きない保障などどこにもない。
私はジョシュアのこともあり、他の戦友がどうなっているか気になって自分なりに調べてみた。
普通に暮らしている人もいるが、中には私のように普通に暮らせてはいるが睡眠障害が出ている者や既に命を絶っている者やジョシュアと同じように犯罪者になってしまった者までいた。
麻薬依存症になってしまった者は戦争の恐怖が終戦後も抜けきれず、その恐怖から少しでも逃げようとして麻薬に手を出してしまったようだ。
私は調査結果が書かれた書類を机の上に放り投げて天井を見上げた。
「どうしてこんなことになってしまったのだろう」
ただ死にたくなかっただけ。
ただ生きて帰りたかっただけ。
家族に、愛する者たちに会いたかっただけなのに。
誰もこんな末路を望んだわけではなかった。
「私も同じ末路を辿るのだろうか」
明日は我が身と言うように、彼らと同じ末路を辿ってもおかしくはない。
同じ恐怖心に長期間晒され続けたし、人もたくさん殺した。たくさんの仲間を失ってきた。私と彼らの違いに大差はない。そう考えると恐ろしくて仕方がなかった。
誰かを傷つける前に、ルーエンブルクの名を傷つける前に自らの手でこの命を終わらせた方がいいのではないかとさえ思ってしまう。
そう思って乾いた笑みが私からこぼれた。
「何のために生き残ったのか」
こんな末路を辿るために生き残ったわけではないのに。
「お嬢様、王家より召喚命令が来ております」
家令が持ってきた封書には確かに御名御璽が施されていた。
「内容は?」
「それが」と言い淀む家令に一緒に入ってきた不機嫌顔のエリックがため息混じりに答える。
「王女が孤児院の視察に同行したことがあったろ。その時、何かあったのか?」
王女の世間知らずぶりが明らかになったわけだけど、そういえば王にこの横暴を報告するとか言ってたな。
行動を起こしたのか。つまり、あの視察は全くの無意味。時間を無駄に浪費しただけか。関わると碌なことないな。できれば、ずっと無縁でいたいけど向こうが関わってくるし、公爵位を賜った以上は無縁ではいられないな。
「孤児院の子供が着ている服をボロ切れだとか、大部屋ではなく一人一部屋にしろとかの要望を断り、さらにはなぜ使用人を使わないのかという質問も出てきたから孤児院の視察を中断させた」
私の回答に家令もエリックも開いた口が塞がらないようだった。
「待て、待て、待て」
エリックは頭を押さえて、今私が言ったことを必死に整理しようとしている。
「使用人?一人一部屋?どこに視察へ行ったんだ?下級貴族の屋敷にでも行ってきたのか?」
「孤児院だ」
「お嬢様、ボロ切れというのは?」
「平民が来ている一般の服のことだ。王女様曰く、王都のブティックで仕立て直せと」
「訳が分からん」
エリックのように私もそう叫びたい気分だ。
「全て却下したら、まさか召喚命令が来るとはな」
「どのような理由であれ従わねばなりません。お早く準備を」
「ああ」
家令に促されて私は重い腰を上げた。
「エリック、万が一の場合はルーエンブルクを頼む」
「不吉なことを言うなよ」
あり得ないと言いたげな顔をするエリックに私は苦笑で返した。
世間知らずな王女、その王女をどこまでも甘やす王家。
万が一が起きない保障などどこにもない。