君死にたまふことなかれ
44.裸の王様
シーラが女王になって最初の議会
通常は国の政策や現在起こっている問題などの解決策、方針を話し合う場でありそのために王は予め必要なデータや知識を頭に叩き込んで望む。
そのため議会で話し合われることは全て根回しが済んでいるのだ。急な案件でない限りは。
「スラムの閉鎖ですか」
前王の側近であったイグナーツは突如、女王として立たなくてはいけなくなったシーラの補佐に回っている。
今日は本来ならイグナーツが議会を進め、女王は議会の雰囲気ややり方に慣れるために出席するだけのものだった。その議会で女王は最初に話があると言って、自分の考えを述べた。
それがスラムの一掃だった。
議会に出席している貴族もイグナーツですら寝耳に水という状態だ。
私はルーを通してその情報を予め入手していたためさほど衝撃を受けなかったがその他の人間は困惑し、どう扱っていいか分からない状態だ。
「急にスラムを閉鎖されると王都の治安が悪化する恐れがあります」
すぐに持ち直したイグナーツはやんわりと否定的な発言をした。
「そこは騎士団の仕事でしょう」とすぐさま返す女王に「お言葉ですが」と女王の後ろに控えていた近衛騎士団団長グラニーツァが一歩前に出て発言した。
「確かに騎士の役目は王都の治安維持であり、弱き民を守ることです。ですが、だからといって陛下自ら王都の治安を悪化されては困ります」
「私は治安を悪化させようとしているわけではないわ。スラムの存在自体、あってはならないものでしょう。みんな、働いて、税金を納めて、暮らしているのよ。自分達でより良い国にしようと貢献しているの。それなのにスラムの人だけが例外なんておかしいでしょう。私は特別扱いが好きではないわ」
世間知らずなお姫様の言葉に議会に出席している貴族は失笑し、意見した団長は口がへの字になっている。
「陛下の意見に私も賛成ですな。陛下は真に国を思っておられる。女王になったばかりで不安も多いでしょうが立派な姿勢です。この老いぼれも陛下の御代のために最善を尽くしましょう」
ほら出た。
馬鹿な女王を祭り上げて好き放題しようと企む輩が。彼らにとって治安の悪化なんてどうでもいいこと。民がどうなろうが関係ない。自分の懐さえ潤えばいいのだ。
だから誰よりも早く賛成の意を示す。そうすることで女王の心象を良くしようということだろう。現に女王は気分良さげに頷いている。
それを見た狐や狸も慌てて賛同の意を示す。
良識のある貴族だけが押し黙り、成り行きを見守っている。今の状況で下手に手は出せない。女王がどのような人ななのか未知数だからだ。
下手に逆らって議会への参加権を剥奪されたら政治に不慣れな女王が無茶苦茶な政策を立てたときに止めることも手助けもできなくなるからだ。
「スラムを閉鎖するとして、そこに住まう人たちはどうするんですか?住む場所も、働き口もすぐには見つかりませんよ」
イグナーツの指摘に私は待ってましたとばかりに発言をする。
「ルーエンブルクが引き取りましょう」
「ほぅ、女公爵が」
うわぁ、戦場を駆ける兵士とは別の怖さがイグナーツにはあるな。
「ご存じのとおり、未だ戦火の爪痕が残っている我が領では復興に人手が必要です。ただ、全員を賄えるだけの維持費は恥ずかしながら我が領にはありませんので国から少しばかり補助金なり支援金なりいただけると助かります」
「ふむ」とイグナーツが再考する中、女王は「なりません」と声を張り上げた。
誰も貧乏くじを引きたくはない。
自分の領で引き取ることにならないで済むのなら面倒ごとを私の領に押し付けてしまいたいと思っていた貴族たちは一斉に女王に視線を向ける。
「理由をお聞かせ願いますか?」
まぁ、想像はつくけどね。
「あなたは孤児を虐待していたじゃないですか」
「事実無根です。女王陛下ともあろう方が、そのように他者を貶めるような発言はお控えください」
「私が嘘をついていると言いたいの?証拠がないだけで」
「証拠がないのは無実だからです。それとも陛下は証拠のない人間を決めつけで裁かれますか?」
「ぐっ」
肯定できないよね。そんなことをしたら裁判の意味がないもの。
馬鹿な女王でも司法を敵に回すべきではないと理解したようだ。
「お金が欲しいからスラムの人を手に入れようだなんて、人身売買だわ」
何を言い出すかと思えば。
「国が提示した議題ですよ。なら、それぐらいは当然ではないですか?あなたのおっしゃる通り、彼らは私たちと同じ人です。ならば、当然ですが生きるだけでもお金がかかるんですよ。餓死させるわけにはいきませんので。何も彼らにかかる費用を全額負担しろと言っているわけではありません」
「私は女公爵の意見に賛成だ」
「私も」
「私も」
「わしも」
先ほどまで女王にゴマを擦り、肩揉みまでして気に入られると必死だった彼らもこの時ばかりは私の意見に賛成してくれた。誰だって自分の領にスラム出身者なんて置いて起きたくはない
「そうですね。スラムの数などを確認し、後日あなたに支払う分の金額を相談するということでよろしいですね」
「ええ」
通常は国の政策や現在起こっている問題などの解決策、方針を話し合う場でありそのために王は予め必要なデータや知識を頭に叩き込んで望む。
そのため議会で話し合われることは全て根回しが済んでいるのだ。急な案件でない限りは。
「スラムの閉鎖ですか」
前王の側近であったイグナーツは突如、女王として立たなくてはいけなくなったシーラの補佐に回っている。
今日は本来ならイグナーツが議会を進め、女王は議会の雰囲気ややり方に慣れるために出席するだけのものだった。その議会で女王は最初に話があると言って、自分の考えを述べた。
それがスラムの一掃だった。
議会に出席している貴族もイグナーツですら寝耳に水という状態だ。
私はルーを通してその情報を予め入手していたためさほど衝撃を受けなかったがその他の人間は困惑し、どう扱っていいか分からない状態だ。
「急にスラムを閉鎖されると王都の治安が悪化する恐れがあります」
すぐに持ち直したイグナーツはやんわりと否定的な発言をした。
「そこは騎士団の仕事でしょう」とすぐさま返す女王に「お言葉ですが」と女王の後ろに控えていた近衛騎士団団長グラニーツァが一歩前に出て発言した。
「確かに騎士の役目は王都の治安維持であり、弱き民を守ることです。ですが、だからといって陛下自ら王都の治安を悪化されては困ります」
「私は治安を悪化させようとしているわけではないわ。スラムの存在自体、あってはならないものでしょう。みんな、働いて、税金を納めて、暮らしているのよ。自分達でより良い国にしようと貢献しているの。それなのにスラムの人だけが例外なんておかしいでしょう。私は特別扱いが好きではないわ」
世間知らずなお姫様の言葉に議会に出席している貴族は失笑し、意見した団長は口がへの字になっている。
「陛下の意見に私も賛成ですな。陛下は真に国を思っておられる。女王になったばかりで不安も多いでしょうが立派な姿勢です。この老いぼれも陛下の御代のために最善を尽くしましょう」
ほら出た。
馬鹿な女王を祭り上げて好き放題しようと企む輩が。彼らにとって治安の悪化なんてどうでもいいこと。民がどうなろうが関係ない。自分の懐さえ潤えばいいのだ。
だから誰よりも早く賛成の意を示す。そうすることで女王の心象を良くしようということだろう。現に女王は気分良さげに頷いている。
それを見た狐や狸も慌てて賛同の意を示す。
良識のある貴族だけが押し黙り、成り行きを見守っている。今の状況で下手に手は出せない。女王がどのような人ななのか未知数だからだ。
下手に逆らって議会への参加権を剥奪されたら政治に不慣れな女王が無茶苦茶な政策を立てたときに止めることも手助けもできなくなるからだ。
「スラムを閉鎖するとして、そこに住まう人たちはどうするんですか?住む場所も、働き口もすぐには見つかりませんよ」
イグナーツの指摘に私は待ってましたとばかりに発言をする。
「ルーエンブルクが引き取りましょう」
「ほぅ、女公爵が」
うわぁ、戦場を駆ける兵士とは別の怖さがイグナーツにはあるな。
「ご存じのとおり、未だ戦火の爪痕が残っている我が領では復興に人手が必要です。ただ、全員を賄えるだけの維持費は恥ずかしながら我が領にはありませんので国から少しばかり補助金なり支援金なりいただけると助かります」
「ふむ」とイグナーツが再考する中、女王は「なりません」と声を張り上げた。
誰も貧乏くじを引きたくはない。
自分の領で引き取ることにならないで済むのなら面倒ごとを私の領に押し付けてしまいたいと思っていた貴族たちは一斉に女王に視線を向ける。
「理由をお聞かせ願いますか?」
まぁ、想像はつくけどね。
「あなたは孤児を虐待していたじゃないですか」
「事実無根です。女王陛下ともあろう方が、そのように他者を貶めるような発言はお控えください」
「私が嘘をついていると言いたいの?証拠がないだけで」
「証拠がないのは無実だからです。それとも陛下は証拠のない人間を決めつけで裁かれますか?」
「ぐっ」
肯定できないよね。そんなことをしたら裁判の意味がないもの。
馬鹿な女王でも司法を敵に回すべきではないと理解したようだ。
「お金が欲しいからスラムの人を手に入れようだなんて、人身売買だわ」
何を言い出すかと思えば。
「国が提示した議題ですよ。なら、それぐらいは当然ではないですか?あなたのおっしゃる通り、彼らは私たちと同じ人です。ならば、当然ですが生きるだけでもお金がかかるんですよ。餓死させるわけにはいきませんので。何も彼らにかかる費用を全額負担しろと言っているわけではありません」
「私は女公爵の意見に賛成だ」
「私も」
「私も」
「わしも」
先ほどまで女王にゴマを擦り、肩揉みまでして気に入られると必死だった彼らもこの時ばかりは私の意見に賛成してくれた。誰だって自分の領にスラム出身者なんて置いて起きたくはない
「そうですね。スラムの数などを確認し、後日あなたに支払う分の金額を相談するということでよろしいですね」
「ええ」