異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

103 初めての旅

「お待ちしておりました」

神殿に着くとクムヒム神官が待っていた。

「ユイナは待っていてくれ」
「じゃあ、先生は私の部屋に一緒に行きましょう」

財前さんの部屋で彼を待つことにした。

「先生は、これからどうするの?」
「とりあえずアドルファスとの結婚式までに、自分がこの世界で何ができるのか、考えようと思っているの。あ、もし財前さんが構わなければ、浄化のお手伝いも出来ないかなと」
「ほんとう? 先生と一緒なら嬉しい」
「そんなに喜んでくれて嬉しいわ」
「でも、貴族の家の奥様って仕事するものなのですか?」
「さ、さあ? でも、外国の貴族も色々やっているのをテレビで見たことあるし」
「それは現代だったからで、昔は職業婦人っていなかったですよ」
「でも、市場では女性も働いていたし」
「それは平民の人たちですよね」

これではどちらが大人かわからない。

「た、確かに・・でも、できれば養護教諭の仕事みたいなことを出来たらいいなと思っているの」
「無理に働かなくてもいいと思うけどな」
「今すぐじゃないけど、いずれは時間を持て余すわ。まずは浄化が出来るようになって、魔巣窟を撲滅したいよね」
「いいですね。二人で『目指せ!魔巣窟撲滅』」

ふふふと二人で笑い合っていると、アドルファスがやってきた。

「もう終わったのですか?」
「ええ」

彼は指輪のケースよりは少し大きい箱を手に持っていた。

「ええ、新しいリングです」
「それが・・」
「クムヒム神官が驚いていました。外したリングについても調べてみるそうです。それから、彼にはずっとお世話になっていましたから、あのこともお話ししました」
「そうなのですね」
「自分に力がなくて申し訳なかったと泣かれてしまいましたが、彼のお陰で五年間やって来られたのは事実ですから、そんなことはないと伝えました」

五年の間、アドルファスが発作で苦しむ度に浄化してくれていたクムヒム神官の努力は否定できない。アドルファスの言うとおり、彼がいなければアドルファスはもっと苦しんでいた。

「それって、何が入っているんですか?」

私たちの間にひょっこりと財前さんが割って入ってきた。

「あ、こ、これは・・その」

避妊リングとは言うのもどうかと思い、どう言おうかと考えていると

「男専用の装飾品です」

あっさりとアドルファスが答えた。

「男の人専用?」
「ええ」
「あの、アドルファス、それは・・」
「彼女もここでは立派な成人です。知っておく必要があります。カザール殿と付き合うなら尚更」
「そ、そうですね」

セックスというものに恥ずかしさを感じる私とは違い、アドルファスは淡々としている。

「ですが、我々は時間がありませんので、詳しくはカザール副神官長に聞いてください」
「リヴィウスにですか?」
「そうです。恋人なら知っておく必要がありますから」
「じゃあ、先生も?」
「え、ええ」

「恋人」というフレーズに何となく意味を察したらしく、財前さんは顔を赤らめていた。

「それから、戻ってきたら『潔斎の儀』を行ってもらえるように手配していただきました」
「あ、ありがとうございます」

「潔斎の儀」・・財前さんが行った聖女の力を引き出す儀式。
この前は無事に財前さんが儀式を終えるようにと祈っていたのに、今後は私がそれを行うことになるとは思わなかった。

「では、私たちはこれで失礼します。今から私の両親に会いに少し都を離れます」
「じゃあ、財前さんまたね」
「はい、先生」

財前さんに手を振り、二人で神殿を後にした。

そしてそのままアドルファスの両親に会うため、王都を出て行く。

レインズフォード公爵家の領地ボルサットは海辺にあるらしい。この世界の海を見るのは初めてだった。
とはいえ、アドルファスの両親に会うのだと思うと、今から緊張する。

「カヴァリという所まで馬車で行きます。そこに転移ゲートが設置されています」

転移ゲートでボルサットの手前のルキシヴェラという街に転移する。長距離を移動する場合、この転移魔法を発動させる魔法陣を刻んだ馬車を使うらしい。
とは言え、全ての目的地に転移ゲートが設置されているわけではなく、目的地に一番近いゲートがルキシヴェラだと言う。
普通なら一週間ほどかかる距離を短縮し王都からカヴァリまで馬車で半日。ルキシヴェラの転移ゲートからボルサットまで馬車で一日かかる。
今日の行程はルキシヴェラまで。そこで一泊し、明日の朝、ボルサットに着く。

「転移ゲートで移動って、どんな感じなのです?」

ジェットコースターなどのスピード系の乗り物は平気なのだが、同じ所をぐるぐる回るような乗り物は苦手なので、転移ゲートを使うことに心配だった。

「目を一瞬瞑っている間に移動してしまいます。本当にあっと言う間です」

カヴァリ近くまでくると、同じように転移ゲートを使う人たちの列が並んでいた。

ゲートは高い石を積み上げた塀の囲まれた中にあり、直径は馬車二台が並べる位に広い。
入り口には門番が立っていて、ずっと警備しているそうだ。
利用は殆どが王侯貴族と裕福な商人で、ゲートを使うにはそれなりに費用がいるらしい。
門を潜ると小さな小屋があり、そこから出てきた人に通行料を払う。
通行料がゲートを護る人たちの収入源のひとつになっている。

「レインズフォード様ですね。書類と通行料をいただきます。ゲートを通るのは馬車一台と馬が二頭、人が三人ですね。全部で大金貨一枚です」

何やら凄い金額が聞こえてきた。
金貨五十枚で大金貨一枚と教えてもらった。

便利だけど、ファーストクラス並みの値段なのには驚いた。

< 103 / 118 >

この作品をシェア

pagetop