異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
106 レインズフォード邸への道
ルキシヴェラを出て街道を進み、広い牧草地を馬車は進んでいく。
石造りの家が固まって建つ村を抜けると、左に海が見えてきた。
「海、海です、アドルファス」
電車やバスに乗って移動する時、海が見えるとテンションが上がるのは、何故なんだろう。
「ええ、そうですね」
そんな私の様子を見てアドルファスが笑う。
不意に恥ずかしくなって、浮かせていた腰を降ろした。
「その、レインズフォードの領地はまだ先なのですか?」
恥ずかしいのを誤魔化すために聞いた。
「もうすでに領地の中ですよ」
「え? い、いつの間に?」
「ルキシヴェラを出てすぐです。看板があったかと思いますが、気が付きませんでしたか?」
「見てません。でもさっき村を通りました。あの村を出てすぐだったのですか?」
「いえ、それより前です。あの村は小作人の家です。あの村以外にもいくつか村落はあって、すべてレインズフォード家の土地で耕作しています」
「どこからどこまでがそうなのですか? というか、どれだけ所有しているのですか?」
「王都にあるのは屋敷とその土地だけですが、あの海までがレインズフォード家の領地です」
もはや東京○○ズニ○○○ート並の広さ。ドーム何個分とかのレベルじゃない。
王都の屋敷だってかなりのものだった。
見て回るだけで何日かかるだろう。
「ボルサット全体がほぼレインズフォード家の持ち物です」
開いた口が塞がらない。どこまで土地持ちなのか。
「我が家など、王室に比べればまだまだです」
比べるところが違う。王家と張り合ってどうするのか。
「ほら、見えてきました。あれが領主の館です」
なだらかな道をゆっくりと登って行くと、とても大きな屋敷がその向こうに見えた。
小高い丘の上に建つそれは遠くから窓がちらりと見え、いったいいくつあるのかと思った。
「正確に数えたことはありませんが、五十はあると思います」
スケールの大きさについていけなくなる。
そうこうするうちに、馬車はいくつかの村落を抜け、鉄格子のアーチの門を潜った。
そこから緩やかな坂が上に向かって伸び、両脇には林が広がっているため、その先は何も見えない。
ホルンが昇り始めると同時に出発し、既にそれは空の高い位置にある。もう領地に入っていると教えてもらってからかなり時間が経っている。
それでもその先の目的地レインズフォード邸の本宅はまだ見えない。
さすが公爵家。
けれど馬車が進むにつれ、確実に目的地に近づいている。それに比例するように私の緊張も高まる。
そっと向かいに座るアドルファスを見ると、彼も同じように緊張しているのがわかる。
私に気づくとぎこちなく笑みを浮かべる。
私にとっては初めて会う人達。
そして好きな人の両親。
これから義父母になる予定の相手。
でも彼にとっては、自分を慈しみ育ててくれていた両親。
でも、彼の怪我を機に心が壊れ、彼のことを忘れてしまった母親との五年ぶりの再会。
いくつになっても母親への思慕はある。
マザコンなんて言葉で彼のことを語れない。
二人きりになると彼は仮面を外している。
皮膚の色は元に戻っていても、傷はまだ残っている。
私が『潔斎の儀』を終え、もっと力が増せば、それも治せるのだろうか。
でもそうなると、この前は、私はまだきちんと聖女として認定されていないからと説き伏せたが、儀式を終えたら彼は私の手を拒んでしまいそうな気がする。
何度かカーブを右に左に曲がり、林の木々が途絶えたその先に、ようやく邸宅の一角である一番高い屋根が見え始めた。
「ここが最後の門です」
馬車が近づくと、門全体がうっすらと輝きを放ったのが窓から見えた。
「アドルファス、今のは?」
「結界が解除されました。馬車には解除の紋が刻まれています。許可された者しか中に入れません。それと共に到着の報せが中の者に伝わっている筈です」
呼び鈴みたいなものだろう。
「ユイナ、私を抱き締めてください」
私に手を伸ばすアドルファスの手が僅かに震えている。私が抱き締めると、彼の口から安堵の吐息が漏れた。
「どうやら私はあなたを得て、心が弱くなったようです。あなたに触れていないと緊張で倒れてしまいそうです。情けないですね」
「頼ってください。私には物理的にあなたを支えることも経済的にあなたを支援することも出来ません。でも、心の支えに…あなたの心に寄り添うことは出来ます」
そう言うと、彼は弱々しく微笑む。
「それはあなただから出来ることです。物理的に支えるなら屈強な者が五万といます。お金は私的財産は国家予算には少し足りませんが、暮らしていくには充分あります」
さらりと言ったが、国家予算に少し足らないって、少しってどれくらい?天文学的数字になりそうで、怖くて聞けなかった。
石造りの家が固まって建つ村を抜けると、左に海が見えてきた。
「海、海です、アドルファス」
電車やバスに乗って移動する時、海が見えるとテンションが上がるのは、何故なんだろう。
「ええ、そうですね」
そんな私の様子を見てアドルファスが笑う。
不意に恥ずかしくなって、浮かせていた腰を降ろした。
「その、レインズフォードの領地はまだ先なのですか?」
恥ずかしいのを誤魔化すために聞いた。
「もうすでに領地の中ですよ」
「え? い、いつの間に?」
「ルキシヴェラを出てすぐです。看板があったかと思いますが、気が付きませんでしたか?」
「見てません。でもさっき村を通りました。あの村を出てすぐだったのですか?」
「いえ、それより前です。あの村は小作人の家です。あの村以外にもいくつか村落はあって、すべてレインズフォード家の土地で耕作しています」
「どこからどこまでがそうなのですか? というか、どれだけ所有しているのですか?」
「王都にあるのは屋敷とその土地だけですが、あの海までがレインズフォード家の領地です」
もはや東京○○ズニ○○○ート並の広さ。ドーム何個分とかのレベルじゃない。
王都の屋敷だってかなりのものだった。
見て回るだけで何日かかるだろう。
「ボルサット全体がほぼレインズフォード家の持ち物です」
開いた口が塞がらない。どこまで土地持ちなのか。
「我が家など、王室に比べればまだまだです」
比べるところが違う。王家と張り合ってどうするのか。
「ほら、見えてきました。あれが領主の館です」
なだらかな道をゆっくりと登って行くと、とても大きな屋敷がその向こうに見えた。
小高い丘の上に建つそれは遠くから窓がちらりと見え、いったいいくつあるのかと思った。
「正確に数えたことはありませんが、五十はあると思います」
スケールの大きさについていけなくなる。
そうこうするうちに、馬車はいくつかの村落を抜け、鉄格子のアーチの門を潜った。
そこから緩やかな坂が上に向かって伸び、両脇には林が広がっているため、その先は何も見えない。
ホルンが昇り始めると同時に出発し、既にそれは空の高い位置にある。もう領地に入っていると教えてもらってからかなり時間が経っている。
それでもその先の目的地レインズフォード邸の本宅はまだ見えない。
さすが公爵家。
けれど馬車が進むにつれ、確実に目的地に近づいている。それに比例するように私の緊張も高まる。
そっと向かいに座るアドルファスを見ると、彼も同じように緊張しているのがわかる。
私に気づくとぎこちなく笑みを浮かべる。
私にとっては初めて会う人達。
そして好きな人の両親。
これから義父母になる予定の相手。
でも彼にとっては、自分を慈しみ育ててくれていた両親。
でも、彼の怪我を機に心が壊れ、彼のことを忘れてしまった母親との五年ぶりの再会。
いくつになっても母親への思慕はある。
マザコンなんて言葉で彼のことを語れない。
二人きりになると彼は仮面を外している。
皮膚の色は元に戻っていても、傷はまだ残っている。
私が『潔斎の儀』を終え、もっと力が増せば、それも治せるのだろうか。
でもそうなると、この前は、私はまだきちんと聖女として認定されていないからと説き伏せたが、儀式を終えたら彼は私の手を拒んでしまいそうな気がする。
何度かカーブを右に左に曲がり、林の木々が途絶えたその先に、ようやく邸宅の一角である一番高い屋根が見え始めた。
「ここが最後の門です」
馬車が近づくと、門全体がうっすらと輝きを放ったのが窓から見えた。
「アドルファス、今のは?」
「結界が解除されました。馬車には解除の紋が刻まれています。許可された者しか中に入れません。それと共に到着の報せが中の者に伝わっている筈です」
呼び鈴みたいなものだろう。
「ユイナ、私を抱き締めてください」
私に手を伸ばすアドルファスの手が僅かに震えている。私が抱き締めると、彼の口から安堵の吐息が漏れた。
「どうやら私はあなたを得て、心が弱くなったようです。あなたに触れていないと緊張で倒れてしまいそうです。情けないですね」
「頼ってください。私には物理的にあなたを支えることも経済的にあなたを支援することも出来ません。でも、心の支えに…あなたの心に寄り添うことは出来ます」
そう言うと、彼は弱々しく微笑む。
「それはあなただから出来ることです。物理的に支えるなら屈強な者が五万といます。お金は私的財産は国家予算には少し足りませんが、暮らしていくには充分あります」
さらりと言ったが、国家予算に少し足らないって、少しってどれくらい?天文学的数字になりそうで、怖くて聞けなかった。