異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

113 新たなリングの検証

その後、再び四人で向かい合って話をした。

二人には私が聖女と共に召喚された異世界人であることや、アドルファスとの出会いなどを話した。
アドルファスが初めて私を見たときから心惹かれていたと言った時には、何度聞いても嬉しいやら恥ずかしいやら照れてしまう。

彼の両親はそれをそうかそうかと、頷いて聞いてくれていた。

「リングが・・そんなことあるのね」

アドルファスのリングが黒ずみ、新たなリングを着けてもらうのが今回の訪問の目的だったが、そういうことをやっていますと親に言うことになるので、これもまた恥ずかしい。

「もう新しいものは着けたの?」
「はい、先ほど」
「じゃあ、今夜から二人一緒の部屋で大丈夫ね」
「はい」

この世界の性事情は私の普段の常識としては、かなり進歩的なのかもしれない。国によって人によって性に対する認識は様々なのだから、これはあくまでも私の問題

「二人の結婚式には是非参列させてね。私もそれまでにもう少し元気になっておくわ」
「是非、お願いします」
「それに、私が今まで編んだ物も、二人の子どものために活用させて。何しろ五年かけて造った赤ちゃん用の肌着や服があるの」
「そうだ。だから子どもは一人じゃ無く何人でもいいぞ」
「励みます」
「あ、ありがとうございます」

子作りを励むということは、あっちを頑張ると言うこと。体力魔神のアドルファスに付き合いきれるか一抹の不安はあった。

「でも、傷はまだ治せないのです。私の力が足りないのでしょうか」

魔巣窟の毒素の浄化はできたが、顔の傷は消せなかった。

「これはこのままでもいいと思っています。五年この顔で生きてきたのですから、元に戻らなくても痛くも苦しくもありませんから」
「でも・・」
「アドルファスの言う通りよ。それにこの傷は、アドルファスが頑張った証拠。言わばこの子の勲章なのです。五年前はそれを認めてあげられなかったけど、この傷を見る度に私はこの子を誇りに思うでしょう」
「ああ、システィーヌの言うとおりだ。我々は素晴らしい息子を持った。それを見る度にそう思う」
「そういうことです。だからこれ以上は望みません。何の力がなかったとしてもユイナがいるだけで私はいいんです」

何か役に立たなくちゃと焦りを抱いていた少し前の私。
全属性の能力があるとわかり、魔巣窟の毒を浄化し、そして他の人には見えないものが見えるとわかっても、変わらず私を私のまま受け入れてくれるという、彼の心からの言葉だった。


夜も遅くなり、名残惜しいが明日は帰ることが決まっている。
今度はご両親二人が王都に行くと約束してくれた。

「ありがとうございます。ユイナ」

用意された部屋に二人で戻ると、アドルファスが私の手を取りその甲に口づけし感謝の言葉を言った。

「アドルファス、もうそれは言わないで。私もお母様があなたのことを思い出してくれて嬉しいの」
「本当に、ユイナがこの世界に来てくれて良かった」
「私も、あなたに出会えて・・愛する人に巡り会えて幸せよ」
「ユイナ」

そうして二人、どちらからともなく抱き合って唇を重ねた。

「明日は早くにここを発ちます。だから無理はさせませないと誓います。だから」
「それ以上は言わないでください」

言いかけた彼の唇に人差し指を当てて、言葉を遮る。

「私も同じ気持ちです。だから、それ以上は言わないでください」
「ユイナ」
「アドルファス、ありがとう。私を受け入れてくれて」
「私の方こそ、あなたがいない世界は考えられません」
「新しいリング、ちゃんと発動するでしょうか」
「では、今からそれを確かめましょう」

私を軽々と抱き上げ、アドルファスは寝台へと向かう。
長い銀髪が窓から差すソルの灯りに照らされて煌々と輝き、光の輪を背負っているようだ。

「愛しています」
「私も」

彼の体にはもう毒の痕跡はない。ただ傷だけが残る。
でもシスティーヌ様が言ったように、これは彼が自分を犠牲にしても他を救おうとした証で、この傷を抱えてきたからこその彼なのだ。

「この傷、あって良かったかも」
「どうしてそう思うのですか」

着ていたものを全て脱ぎ捨て、裸で身を寄せ合いながら、彼の顔や体の傷に指を這わせる。その後を追うように唇を寄せる。

「だって、この傷や仮面があったから、他の令嬢たちはあなたから遠ざかった。あなたの婚約者も。きっとこれがなかったら、あなたはとっくに誰かと結婚して幸せになっていた。私がこの世界に来ても、こんな関係にならなかった」

アドルファスとこうならなかったこの世界で、私はどうなっていただろう。それを考えると怖くなる。

「すべては必然です。私とあなたが出会い、こんな風に抱き合っているのも、きっと最初から決まっていた」
「そんなロマンチストだと思わなかったわ」
「男はいつだって夢を追いかけるものなのです」
「女だってそうです」
「さあ、おしゃべりはこれくらいにして、夜は長いようで短いんです。今から私の想いをたっぷりあなたに注いであげますから」
「来て、アドルファス」

ぎゅっと抱き合い、唇を重ねた。

新しいリングは前と同じように力を発揮した。
ただし、それが光ったのは一回だけとはいかなかった。
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