異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

2 真っ暗な穴の先

『落ちる!』

まるで底なし沼に引きずり込まれるようにあっと言う間に私も穴へと落ちていった。

死を覚悟してぎゅっと目を瞑った瞬間、ドンという軽い衝撃とともに何か壁のようなものにぶつかった。

「おおおおおお」
「成功だ!」
「おお、神よ」

「ケホッ、痛い」

辺りは煙のようなものが立ち込め、吸い込んでしまい咳き込んだ。目にも入って擦った。
そして複数の男の人達の声が耳に入って来た。

他にも落ちた人がいたのかと思った。

「え!」
「なぜだ」
「二人だと?」

煙が晴れてきて、歓喜からどよめきに変わる。

ようやく恐る恐る目を開けて視界が晴れてきて、一番最初に見えたのは後頭部をこちらに向けて倒れている黒い頭。先に落ちた財前さんだった。

「ここ…え…?」

財前さんと私は冷たい石の床にいた。
薄暗い地の底のような空間。
けれど壁には松明が掲げられ、ぼんやりと辺りを照らしている。

「ここ…どこ?」

保健室に地下室でもあって、そこに落ちたのか。いや、そもそも地下室なんてあるわけない。しかも明かりが松明なんて…
そしていくつもの目がこちらを凝視していた。

「ひいいいっ!!」

驚いて可愛くない悲鳴を上げた。

「う…ん」

うめき声と共に財前さんはむくりと起き上がった。

「ここは?」

その時、黒い長衣を身に纏い、杖を持った人物が前へ進み出てきた。

「ラグランジュ王国にようこそ、聖女様。私は王国の筆頭魔法使いで魔塔の主、マルシャルと申します」

そう言って彼は杖を横にして膝を曲げた。

「せ、聖女? ま、魔法?」

どこから突っ込んだらいいかわからない。

「きゃあ! だ、誰この人たち」

私より少し遅れて目が覚め、周囲の異様な光景にようやく気づいた財前さんが悲鳴をあげた。

「驚くのも無理はない。しかし、我々はあなた方に危害を加えるつもりは毛頭ありません」
「それどころか、貴賓としてお迎えさせていただきます」

別の男性が人混みを掻き分け現れた。

「陛下」

魔塔の主を名乗った人物も、周りの人全員が彼に頭を下げる。

年齢は五十くらいだろうか。肩を覆う長さのグレイヘア、頭の周りには宝石を散りばめた金の王冠を被っている。

「へ、へい?」

二人で顔を見合わせ、また目の前に広がる光景の異様さに固まってた。

「我はラグランジュ王国第四十五代国王、エヴァレット・フロイ・ラグランジュと申す」

「は、はあ…」

いきなりのカタカナの名前。英語でもないのになぜか意味は理解できる。

「言語理解の呪文はかけたのか?」

陛下と名乗った男性が、自称?魔法使いに訊ねる。

「はい、それは間違いなく」

「マルシャルがそう言うなら確かなのだろう…しかし聖女が二人とは…」
「恐らくはどちらか一方だけだと思われます。あとの一人は同じ世界から来たのは間違いないないでしょうが…」
「ふむ…と、なればどちらが聖女か…お前はどう見る?」
「そうですな」
「あ、あのっ、さっきから何の話をされてるんですか」

ここは年長の私が何とかしないと。
名前も知らない財前さんの前に立ち、二人に詰め寄った。
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