異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
23 考えてもわからないことは後回し
枕や環境が変わっても、寝付きはいい方だった。
なのにその夜はなかなか眠れなかった。
目が覚めて起きたらすべて夢だった。なんてことを期待するなら眠らないとだけど、レインズフォード卿…アドルファスさんの残した言葉のせいだ。
聖女召喚に巻き込まれた気の毒な人という以外に、私に気を配ってくれる理由。
思い当たる理由はあるのだけど、別の自分が否定する。
いわゆる、私に『気』がある。という理由。
同じ日本人でも相手の気持ちを汲むのは難しいのに、相手は異世界の人で感覚も文化も何もかも違う。
それにこの世界の美醜の基準もよくわからない。
王子が財前さんが聖女だとわかる前に飛びついたのは、もしかしたら彼のお好みだったという想像はつく。
彼女は生粋のお嬢様で、気品もあって年齢の割にしっかりしている。しかもあっちの世界でも誰が見ても美形だ。
私はあそこまで美人とは思わないし、隣に財前さんがいて、私に目が行くとは思えない。
付き合った彼氏は気が合うからとか、何となくとか、そんな理由で交際を始めたのが殆ど。
私も似たようなものだから、そこはお互い様なところがある。
「私のこと、好きなんですか?」
なんて言ってもし勘違いだったら、すごく恥ずかしい。異世界にまできて、なんの恥をかいているんだと思ってしまう。
そして至った結論はもう少し様子を見よう、だった。
「考えても答えのないことは、考えない。気にしすぎ気にしすぎ」
あんなラッキースケベ?的なシチュエーションで胸が当たっても、照れるでもなく一ミリも動じていなかった。
ランニングやストレッチ、ヨガなどでそこそこ体型には気を遣っていて、有り難いことにバストもグラビアとまでは行かないまでも、胸を張れるくらいにはある。
それでもこの世界の人から見ればお子ちゃまで、恋愛対象ではないかも知れない。
そう結論づけると、不思議と納得して途端に眠気が襲ってきた。
今は取り敢えず、食の問題が可及的速やかに解決しないといけないことだ。
夜が明けるまでの束の間、異世界で過ごす夜はこうして明けた。
異世界でも時間が経てば夜は明けて朝が来るのは変わらないらしい。
着いたのが夜だったのでわからなかったが、私に割り当てられた部屋は、陽射しがたくさん降り注ぐ明るい部屋だった。この世界の太陽が東から昇るなら、東向きに窓が付いていることになる。贅沢を極めた陽当りのいい部屋を提供してもらい、今更ながら彼の好意に感謝が湧いた。
「う~ん…これって…」
起きて顔を洗い、昨夜洗った下着を身につけて、クローゼットを開けた。
部屋ひとつ分くらいのクローゼットルームの広さにも驚いたが、それを埋め尽くすくらい吊り下げられた数十着のドレスの山に圧倒された。
「取り敢えずとか言ってなかった?」
毎日日替わりで着るとして半年はかかる量だ。発表会のドレスのようなデザインで材質も上質。麻や木綿などではなく、シルクだ。フリルやレースも付いていて、飾りにはおそらく宝石だろうものも散りばめられている。
「ほんとにこんなの着ていいのかな」
どう見ても特別な日に着る感じのものばかりで、普段着にしていい代物ではない。
悩んでいると扉を叩く音が聞こえた。
「お客様、失礼してもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
返事をすると、夕べここまで案内してくれたベラさんと初めて見る若い女性が二人入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
クローゼットルームの外へ出て挨拶をすると、後ろの二人も軽く膝を屈伸して挨拶をした。
二人も当然ながら背が高い。三人に見下される形になる。
「これからお客様の担当となる使用人のナーシャとスフィアです」
「ナーシャです。よろしくおねがいします」
「スフィアと申します。何なりとお申し付けください」
焦げ茶色の髪と赤褐色の瞳をしているのがナーシャ。栗色の髪と群青色の瞳をしているのがスフィアと名乗った。
「あの、ベラさん」
「どうかベラと。彼女たちにも敬称は不要です」
「でも、私は皆さんの雇い主ではないですし」
「旦那様からご自分たちと同じようにお仕えせよと命じられております。レインズフォード家にご滞在の間は、誠心誠意お仕えさせていただきますので、よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「わかりました。よろしくお願いします」
頑として譲らない雰囲気に、呼び方でいつまでも押し問答しても仕方がないと諦めた。
「ところで、ここにある衣装ですけど…」
「どれかお気に召すものがありましたか?王女様たちがお召になられていたものですから、仕立ての良いものばかりでしょう?」
「質がいいのはわかりますが、私が着てもいいのでしょうか」
「これはお客様のために旦那様が王宮から持ってこさせたものです。お客様以外にこれに袖を通す資格のある者はこの屋敷にはおりません」
「でも、これは少し…いえ、私には立派過ぎる気が…」
選べるならベラたちが着ているような服の方が着ていて気が楽だろう。
「お似合いになると思いますが、暫くはここにある衣装からお選び頂くしかありません」
「わかりました」
お世話になっている立場で贅沢は言っていられない。三人に手伝ってもらい、数十着の中から青い花模様のドレスを選んだ。
美容院以外で髪を触ってもらうのは初めてだった。スフィアは器用に両サイドの髪を編み込んでくれた。
「お支度が終わりましたら、旦那様と大奥様が朝食をご一緒にと仰っております」
なのにその夜はなかなか眠れなかった。
目が覚めて起きたらすべて夢だった。なんてことを期待するなら眠らないとだけど、レインズフォード卿…アドルファスさんの残した言葉のせいだ。
聖女召喚に巻き込まれた気の毒な人という以外に、私に気を配ってくれる理由。
思い当たる理由はあるのだけど、別の自分が否定する。
いわゆる、私に『気』がある。という理由。
同じ日本人でも相手の気持ちを汲むのは難しいのに、相手は異世界の人で感覚も文化も何もかも違う。
それにこの世界の美醜の基準もよくわからない。
王子が財前さんが聖女だとわかる前に飛びついたのは、もしかしたら彼のお好みだったという想像はつく。
彼女は生粋のお嬢様で、気品もあって年齢の割にしっかりしている。しかもあっちの世界でも誰が見ても美形だ。
私はあそこまで美人とは思わないし、隣に財前さんがいて、私に目が行くとは思えない。
付き合った彼氏は気が合うからとか、何となくとか、そんな理由で交際を始めたのが殆ど。
私も似たようなものだから、そこはお互い様なところがある。
「私のこと、好きなんですか?」
なんて言ってもし勘違いだったら、すごく恥ずかしい。異世界にまできて、なんの恥をかいているんだと思ってしまう。
そして至った結論はもう少し様子を見よう、だった。
「考えても答えのないことは、考えない。気にしすぎ気にしすぎ」
あんなラッキースケベ?的なシチュエーションで胸が当たっても、照れるでもなく一ミリも動じていなかった。
ランニングやストレッチ、ヨガなどでそこそこ体型には気を遣っていて、有り難いことにバストもグラビアとまでは行かないまでも、胸を張れるくらいにはある。
それでもこの世界の人から見ればお子ちゃまで、恋愛対象ではないかも知れない。
そう結論づけると、不思議と納得して途端に眠気が襲ってきた。
今は取り敢えず、食の問題が可及的速やかに解決しないといけないことだ。
夜が明けるまでの束の間、異世界で過ごす夜はこうして明けた。
異世界でも時間が経てば夜は明けて朝が来るのは変わらないらしい。
着いたのが夜だったのでわからなかったが、私に割り当てられた部屋は、陽射しがたくさん降り注ぐ明るい部屋だった。この世界の太陽が東から昇るなら、東向きに窓が付いていることになる。贅沢を極めた陽当りのいい部屋を提供してもらい、今更ながら彼の好意に感謝が湧いた。
「う~ん…これって…」
起きて顔を洗い、昨夜洗った下着を身につけて、クローゼットを開けた。
部屋ひとつ分くらいのクローゼットルームの広さにも驚いたが、それを埋め尽くすくらい吊り下げられた数十着のドレスの山に圧倒された。
「取り敢えずとか言ってなかった?」
毎日日替わりで着るとして半年はかかる量だ。発表会のドレスのようなデザインで材質も上質。麻や木綿などではなく、シルクだ。フリルやレースも付いていて、飾りにはおそらく宝石だろうものも散りばめられている。
「ほんとにこんなの着ていいのかな」
どう見ても特別な日に着る感じのものばかりで、普段着にしていい代物ではない。
悩んでいると扉を叩く音が聞こえた。
「お客様、失礼してもよろしいでしょうか」
「あ、はい」
返事をすると、夕べここまで案内してくれたベラさんと初めて見る若い女性が二人入ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
クローゼットルームの外へ出て挨拶をすると、後ろの二人も軽く膝を屈伸して挨拶をした。
二人も当然ながら背が高い。三人に見下される形になる。
「これからお客様の担当となる使用人のナーシャとスフィアです」
「ナーシャです。よろしくおねがいします」
「スフィアと申します。何なりとお申し付けください」
焦げ茶色の髪と赤褐色の瞳をしているのがナーシャ。栗色の髪と群青色の瞳をしているのがスフィアと名乗った。
「あの、ベラさん」
「どうかベラと。彼女たちにも敬称は不要です」
「でも、私は皆さんの雇い主ではないですし」
「旦那様からご自分たちと同じようにお仕えせよと命じられております。レインズフォード家にご滞在の間は、誠心誠意お仕えさせていただきますので、よろしくお願いします」
「「よろしくお願いします」」
「わかりました。よろしくお願いします」
頑として譲らない雰囲気に、呼び方でいつまでも押し問答しても仕方がないと諦めた。
「ところで、ここにある衣装ですけど…」
「どれかお気に召すものがありましたか?王女様たちがお召になられていたものですから、仕立ての良いものばかりでしょう?」
「質がいいのはわかりますが、私が着てもいいのでしょうか」
「これはお客様のために旦那様が王宮から持ってこさせたものです。お客様以外にこれに袖を通す資格のある者はこの屋敷にはおりません」
「でも、これは少し…いえ、私には立派過ぎる気が…」
選べるならベラたちが着ているような服の方が着ていて気が楽だろう。
「お似合いになると思いますが、暫くはここにある衣装からお選び頂くしかありません」
「わかりました」
お世話になっている立場で贅沢は言っていられない。三人に手伝ってもらい、数十着の中から青い花模様のドレスを選んだ。
美容院以外で髪を触ってもらうのは初めてだった。スフィアは器用に両サイドの髪を編み込んでくれた。
「お支度が終わりましたら、旦那様と大奥様が朝食をご一緒にと仰っております」