異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
43 アドルファスさんの過去
聖女召喚で呼ばれたのは財前さん。
私は彼女とたまたま一緒にいて巻き込まれただけ。
そのことで財前さんは悪いと思ったのか、私の身元引受人になったアドルファスさんがどんな人物なのか、彼女なりに周りに聞いて回ったようだった。
「ものすごく強かったそうですよ。魔塔からもスカウトが来るくらい魔力もあって、おまけにおばあさまが王女様で血筋もよくて、えっと…『白銀の』何とかってあだ名があって、彼一人で並の騎士十人くらいの戦力だったとか」
財前さんが聞いた話を繋ぎ合わせて教えてくれた。まるで英雄の物語を聞くような気持ちでそれを聞いていた。
「社交に出るより討伐や戦場にいる方が多かったらしいですけど、ひとたび社交の場に出たら周りに女性をたくさん侍らせてすごかったらしいです」
それなりにもてたとは聞いていたので、驚きはしない。
「でも、あの怪我のせいで、その勢いも衰えたそうです。おまけに婚約も破棄されて、母親までショックで倒れて心を病んでしまったとか」
「え…」
婚約破棄と母親のことは初めて耳にする話で驚きを隠せなかった。
「婚約はちゃんとしていたかどうかははっきりしないそうですけど、それに近い相手はいたらしいです。で、結局破談になって相手は怪我が治り切る前に別の人と結婚して、お母様は息子の怪我と婚約破棄で心を痛めて…」
財前さんは私に教えてあげようと、聞いた話を続ける。
婚約破棄と母親の病…病気療養中だという母親の話をした時に見せた彼とレディ・シンクレアの表情を思い出す。
だからあんな微妙な表情をしたんだ。
あの仮面の下に傷だけでなく、そんな思いを封じ込めていたのだと思うと、やるせない気持ちになった。
「先生?」
「あ、ごめんなさい…こんな短い期間でよくそこまで調べたわね」
「え…と…調べたというか…ほぼ一人の人からの受け売りなんです」
同じようにここでは知り合いもいない財前さんが、どうしてアドルファスさんのことをここまで詳しく知っているのかと不思議だったけど、情報を一人の人から聞いたのなら納得だ。
「それは誰なんですか」
「副神官長のリヴィウスさんです」
「リヴィウス…」
あの場には複数人いたので、誰がその人か覚えていない。でも神官服を着た人は見覚えがあるので、副神官長ならあの場にいたんだろう。
「ねえ、先生、今からでもこっちに来ません? リヴィウスさんも心配してくれていて、やっぱり同郷同士一緒にいたらどうかって言ってくれてるんです」
「そこまで…」
財前さんは別として、聖女の『おまけ』の私をそこまで気にかけてくれる人が他にもいることを心強く思う。
「でも、あなたは聖女としての役割があるのだし、私までお世話になるのは申し訳ないわ。お気持ちは嬉しいけど、私は今のままでとお伝えしてください」
「先生…本当にいいんですか?」
「ありがとう。私は大丈夫だから、あなたは自分のすべきことに専念して」
財前さんの気持ちを無下にはしたくないけど、財前さんに会いに来るまですれ違ったここの人たちは、ひどく余所余所しかった。
無表情で無関心、時折厄介者を見るような視線を向ける人もいた。
「重要な儀式の前の聖女様の貴重な時間を…」
「ただの人が神殿の聖域に…」
そんなヒソヒソ話まで聞こえてきた。ここでは私は大事な聖女様のおまけ以下、邪魔者としか思われていないのがわかった。
財前さんがそれを知れば、きっと気にしてしまう。
「財前さんの気持ちやその副神官長さんの配慮も嬉しいけど、自分のことは自分で何とかするわ。一応大人ですから」
「先生がそう言うなら…」
「レイ、会いに来たぞ」
不意に荒々しい足音がして、ノックもなしにエルウィン王子が乱入してきた。
「エルウィン」
いつの間にか財前さんは彼を呼び捨てにしている。
「なんだお前…いたのか」
財前さんと私に向ける視線の熱がまるで違う。嫌うというよりは、まったく興味がないのだろう。
自分に取って価値があるかないか、役に立つか立たないか。それで人を選別している。
いずれ国王となり国を背負っていく人がこれでいいのかと思うが、王の資格云々言える立場ではない。
「何か用ですか? 今日は会えないって昨日言いましたよね」
昨日言ったと言うことは、昨日も会ったのか。
「それはわかっている。だが、聖女に是非会いたいと各国から大勢の王族が詰めかけている」
「それは潔斎の儀式が終わってからと…」
「それだけ早くあなたに会いたいと、皆転移魔法などを駆使してやってきているのだ。我が国が聖女を召喚したが、魔巣窟の被害はこの大陸全土の問題だ。皆が聖女の登場を心待ちにしていたのだ。彼らに会うのも聖女としての勤めだ」
「でも…」
財前さんはちらりと私を見る。責任感の強い彼女。頼られると嫌とは言えない性格だから、迷っているのだろう。
聖女として相応しい資質とも言える。
「私ならまた来るわ。遠路はるばるあなたに会いに来てくれた人たちを喜ばせてあげて」
「…わかりました。ごめんなさい、先生」
「儀式が終わったら、さっき約束したものを持ってくるわ」
「はい、楽しみにしています」
私は彼女とたまたま一緒にいて巻き込まれただけ。
そのことで財前さんは悪いと思ったのか、私の身元引受人になったアドルファスさんがどんな人物なのか、彼女なりに周りに聞いて回ったようだった。
「ものすごく強かったそうですよ。魔塔からもスカウトが来るくらい魔力もあって、おまけにおばあさまが王女様で血筋もよくて、えっと…『白銀の』何とかってあだ名があって、彼一人で並の騎士十人くらいの戦力だったとか」
財前さんが聞いた話を繋ぎ合わせて教えてくれた。まるで英雄の物語を聞くような気持ちでそれを聞いていた。
「社交に出るより討伐や戦場にいる方が多かったらしいですけど、ひとたび社交の場に出たら周りに女性をたくさん侍らせてすごかったらしいです」
それなりにもてたとは聞いていたので、驚きはしない。
「でも、あの怪我のせいで、その勢いも衰えたそうです。おまけに婚約も破棄されて、母親までショックで倒れて心を病んでしまったとか」
「え…」
婚約破棄と母親のことは初めて耳にする話で驚きを隠せなかった。
「婚約はちゃんとしていたかどうかははっきりしないそうですけど、それに近い相手はいたらしいです。で、結局破談になって相手は怪我が治り切る前に別の人と結婚して、お母様は息子の怪我と婚約破棄で心を痛めて…」
財前さんは私に教えてあげようと、聞いた話を続ける。
婚約破棄と母親の病…病気療養中だという母親の話をした時に見せた彼とレディ・シンクレアの表情を思い出す。
だからあんな微妙な表情をしたんだ。
あの仮面の下に傷だけでなく、そんな思いを封じ込めていたのだと思うと、やるせない気持ちになった。
「先生?」
「あ、ごめんなさい…こんな短い期間でよくそこまで調べたわね」
「え…と…調べたというか…ほぼ一人の人からの受け売りなんです」
同じようにここでは知り合いもいない財前さんが、どうしてアドルファスさんのことをここまで詳しく知っているのかと不思議だったけど、情報を一人の人から聞いたのなら納得だ。
「それは誰なんですか」
「副神官長のリヴィウスさんです」
「リヴィウス…」
あの場には複数人いたので、誰がその人か覚えていない。でも神官服を着た人は見覚えがあるので、副神官長ならあの場にいたんだろう。
「ねえ、先生、今からでもこっちに来ません? リヴィウスさんも心配してくれていて、やっぱり同郷同士一緒にいたらどうかって言ってくれてるんです」
「そこまで…」
財前さんは別として、聖女の『おまけ』の私をそこまで気にかけてくれる人が他にもいることを心強く思う。
「でも、あなたは聖女としての役割があるのだし、私までお世話になるのは申し訳ないわ。お気持ちは嬉しいけど、私は今のままでとお伝えしてください」
「先生…本当にいいんですか?」
「ありがとう。私は大丈夫だから、あなたは自分のすべきことに専念して」
財前さんの気持ちを無下にはしたくないけど、財前さんに会いに来るまですれ違ったここの人たちは、ひどく余所余所しかった。
無表情で無関心、時折厄介者を見るような視線を向ける人もいた。
「重要な儀式の前の聖女様の貴重な時間を…」
「ただの人が神殿の聖域に…」
そんなヒソヒソ話まで聞こえてきた。ここでは私は大事な聖女様のおまけ以下、邪魔者としか思われていないのがわかった。
財前さんがそれを知れば、きっと気にしてしまう。
「財前さんの気持ちやその副神官長さんの配慮も嬉しいけど、自分のことは自分で何とかするわ。一応大人ですから」
「先生がそう言うなら…」
「レイ、会いに来たぞ」
不意に荒々しい足音がして、ノックもなしにエルウィン王子が乱入してきた。
「エルウィン」
いつの間にか財前さんは彼を呼び捨てにしている。
「なんだお前…いたのか」
財前さんと私に向ける視線の熱がまるで違う。嫌うというよりは、まったく興味がないのだろう。
自分に取って価値があるかないか、役に立つか立たないか。それで人を選別している。
いずれ国王となり国を背負っていく人がこれでいいのかと思うが、王の資格云々言える立場ではない。
「何か用ですか? 今日は会えないって昨日言いましたよね」
昨日言ったと言うことは、昨日も会ったのか。
「それはわかっている。だが、聖女に是非会いたいと各国から大勢の王族が詰めかけている」
「それは潔斎の儀式が終わってからと…」
「それだけ早くあなたに会いたいと、皆転移魔法などを駆使してやってきているのだ。我が国が聖女を召喚したが、魔巣窟の被害はこの大陸全土の問題だ。皆が聖女の登場を心待ちにしていたのだ。彼らに会うのも聖女としての勤めだ」
「でも…」
財前さんはちらりと私を見る。責任感の強い彼女。頼られると嫌とは言えない性格だから、迷っているのだろう。
聖女として相応しい資質とも言える。
「私ならまた来るわ。遠路はるばるあなたに会いに来てくれた人たちを喜ばせてあげて」
「…わかりました。ごめんなさい、先生」
「儀式が終わったら、さっき約束したものを持ってくるわ」
「はい、楽しみにしています」