異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
48 迷子?
「良かった…」
「え、ちょ…ア、アドルファスさん?」
両腕でがっちりと息苦しいくらいに羽交い締めにされ、何が起こったのかわからず必死で顔を巡らすと、ポカンと口を開けて私達を見上げるファビオさんと目があった。
「ア、アドルファスさん…は、離して…」
白昼堂々抱きしめられている事実にあたふたとして、彼の肩の前を押して必死で訴える。
「どうしてこんな所にいるんです。迎えが来ることはわかっていたでしょう?」
羽交い締めは解いてくれたが、顔は至近距離のままで問い詰められた。
「そ、それは…いろいろと…」
迎えが来るまで神殿にいた方が良かったのはわかる。神殿でもはっきり迷惑だと言われたわけでもない。ただ居心地が悪くて外に出た。それがこんな風に心配させてしまったことに、自分の軽率な行動が招いた事態に困惑する。
「ここで何をしていたんですか。貴殿は何者だ」
アドルファスさんは一番近くにいたファビオさんに矛先を向ける。
「え、あ…えっと…レ、レインズフォード…卿?」
アドルファスさんが顔をファビオさんに向けたので、左半面の仮面がいやでも目につく。
「いかにも、私はレインズフォードだ」
仮面のせいなのかどうか、アドルファスさんは有名なのか、ファビオさんは彼が誰かすぐにわかったようだ。
息子さんが士官学校に通っていると言っていたからなのかもしれない。
「えっと…レインズフォード卿がなぜ…ユイナさんとは…」
「彼女は私の屋敷に滞在している大事な客人だ。今日は神殿に用があって出てきたはずなのに、ここで彼女と何を…」
「じゃ、じゃあ、世話になっている家って…」
「王都はまだ不案内な彼女をここに留めて、貴殿らは一体…」
「あの、せ、説明します、でもファビオさんたちは何も関係ありません。私が勝手にここまで歩いてきたんです」
ファビオさんたちが私をここに誘ったような口ぶりだったので、それは否定した。
「それは本当ですか?」
「え、ええ」
ファビオさんたちは悪くないとわかって、アドルファスさんの彼らに対する敵意のようなものは消えた。
ほっとして気を緩めると、周りが騒がしい。
アドルファスさんの体で遮られていたので気づかなかったが、周りに人だかりができていた。
さっきファビオさんが具合を悪くした時以上の人がいて、買い物客まで足を止めてこっちを見ている。
「レインズフォード卿!」
「見つかったのですか!」
そこに人混みを掻き分けて警備兵のような人たちまで合流する。
神殿の門番の服装をした人もいる。
「ああ、見つかった」
右手を私の背中に回し、守るようにしてアドルファスさんが彼らの方を向いた。
「よ、良かった」
駆けつけた人たちは泣きそうな顔でアドルファスさんの腕の中にいる私を見た。
「彼女が無事に見つかったから命を奪うのは大目に見てやろう。だが、お前たちの職務怠慢については言及するからそのつもりでいろ」
何やら物騒な単語がアドルファスさんの口から発せられ、ギョッとする。
もしや私がいなくなったことでそんな話になっているのかと、慌てた。
「あの、アドルファスさん、もしかして私が勝手に動き回ったから…」
「大事な国賓を危険な目に遭わせたのだ。相応の処罰は逃れられない。無事だったとしてもあなたが神殿から出てここに来るのを誰も確認できなかったのは彼らの落ち度だ」
「そのことについては、申し開きもできません」
門番たちは項垂れ震えている。
「そんな、大げさな」
「彼らも自分の失態を認めている。当然のことだ」
冷たいアドルファスさんの言葉に背筋が凍った。
ここでは人の命はそれほど重要視されていないのかも知れない。魔獣に襲われるだけでなく、人の命が一度の失態で簡単に処罰される。
「彼らはきちんと仕事をしていました。諸外国からの訪問客の対応に追われていたので、私が彼らに声を掛けず勝手にここへ来たんです。悪いのは私です。だから、彼らを怒らないであげてください」
軽い気持ちで街を歩いたのがいけなかった。日本でいる時と同じ感覚で出歩いた自分の迂闊さを悔やんだ。
「私が悪いんです。怒るなら私を…」
アドルファスさんの衣服を掴み必死で懇願する。自分の迂闊な行動で誰かが処罰されるなんて耐えられない。
「ファビオさんたちも、事情があって私が居座ったんです。だから、誰も今回のことで責めないで下さい。罰なら私に」
必死の私の訴えに、目を閉じてアドルファスさんはため息を吐いた。
「そこまで言うなら…あなたへの罰は後で…とりあえず戻りましょう」
それからファビオさんたちの方に顔を向けた。
「騒がせた」
「い、いえ…」
私の肩に腕を回したまま、アドルファスさんは踵を返し歩き出した。
そのまま私も付き従う。
歩きながら後ろを振り向き、ファビオさんやミランダさんに会釈した。
「ありがとう。世話になった…なりました」
彼らは呆然としながらも手を軽く上げて手を振ってくれた。くだけた口調から丁寧語になったのは彼らの気持ちがそうさせたのだろう。
「え、ちょ…ア、アドルファスさん?」
両腕でがっちりと息苦しいくらいに羽交い締めにされ、何が起こったのかわからず必死で顔を巡らすと、ポカンと口を開けて私達を見上げるファビオさんと目があった。
「ア、アドルファスさん…は、離して…」
白昼堂々抱きしめられている事実にあたふたとして、彼の肩の前を押して必死で訴える。
「どうしてこんな所にいるんです。迎えが来ることはわかっていたでしょう?」
羽交い締めは解いてくれたが、顔は至近距離のままで問い詰められた。
「そ、それは…いろいろと…」
迎えが来るまで神殿にいた方が良かったのはわかる。神殿でもはっきり迷惑だと言われたわけでもない。ただ居心地が悪くて外に出た。それがこんな風に心配させてしまったことに、自分の軽率な行動が招いた事態に困惑する。
「ここで何をしていたんですか。貴殿は何者だ」
アドルファスさんは一番近くにいたファビオさんに矛先を向ける。
「え、あ…えっと…レ、レインズフォード…卿?」
アドルファスさんが顔をファビオさんに向けたので、左半面の仮面がいやでも目につく。
「いかにも、私はレインズフォードだ」
仮面のせいなのかどうか、アドルファスさんは有名なのか、ファビオさんは彼が誰かすぐにわかったようだ。
息子さんが士官学校に通っていると言っていたからなのかもしれない。
「えっと…レインズフォード卿がなぜ…ユイナさんとは…」
「彼女は私の屋敷に滞在している大事な客人だ。今日は神殿に用があって出てきたはずなのに、ここで彼女と何を…」
「じゃ、じゃあ、世話になっている家って…」
「王都はまだ不案内な彼女をここに留めて、貴殿らは一体…」
「あの、せ、説明します、でもファビオさんたちは何も関係ありません。私が勝手にここまで歩いてきたんです」
ファビオさんたちが私をここに誘ったような口ぶりだったので、それは否定した。
「それは本当ですか?」
「え、ええ」
ファビオさんたちは悪くないとわかって、アドルファスさんの彼らに対する敵意のようなものは消えた。
ほっとして気を緩めると、周りが騒がしい。
アドルファスさんの体で遮られていたので気づかなかったが、周りに人だかりができていた。
さっきファビオさんが具合を悪くした時以上の人がいて、買い物客まで足を止めてこっちを見ている。
「レインズフォード卿!」
「見つかったのですか!」
そこに人混みを掻き分けて警備兵のような人たちまで合流する。
神殿の門番の服装をした人もいる。
「ああ、見つかった」
右手を私の背中に回し、守るようにしてアドルファスさんが彼らの方を向いた。
「よ、良かった」
駆けつけた人たちは泣きそうな顔でアドルファスさんの腕の中にいる私を見た。
「彼女が無事に見つかったから命を奪うのは大目に見てやろう。だが、お前たちの職務怠慢については言及するからそのつもりでいろ」
何やら物騒な単語がアドルファスさんの口から発せられ、ギョッとする。
もしや私がいなくなったことでそんな話になっているのかと、慌てた。
「あの、アドルファスさん、もしかして私が勝手に動き回ったから…」
「大事な国賓を危険な目に遭わせたのだ。相応の処罰は逃れられない。無事だったとしてもあなたが神殿から出てここに来るのを誰も確認できなかったのは彼らの落ち度だ」
「そのことについては、申し開きもできません」
門番たちは項垂れ震えている。
「そんな、大げさな」
「彼らも自分の失態を認めている。当然のことだ」
冷たいアドルファスさんの言葉に背筋が凍った。
ここでは人の命はそれほど重要視されていないのかも知れない。魔獣に襲われるだけでなく、人の命が一度の失態で簡単に処罰される。
「彼らはきちんと仕事をしていました。諸外国からの訪問客の対応に追われていたので、私が彼らに声を掛けず勝手にここへ来たんです。悪いのは私です。だから、彼らを怒らないであげてください」
軽い気持ちで街を歩いたのがいけなかった。日本でいる時と同じ感覚で出歩いた自分の迂闊さを悔やんだ。
「私が悪いんです。怒るなら私を…」
アドルファスさんの衣服を掴み必死で懇願する。自分の迂闊な行動で誰かが処罰されるなんて耐えられない。
「ファビオさんたちも、事情があって私が居座ったんです。だから、誰も今回のことで責めないで下さい。罰なら私に」
必死の私の訴えに、目を閉じてアドルファスさんはため息を吐いた。
「そこまで言うなら…あなたへの罰は後で…とりあえず戻りましょう」
それからファビオさんたちの方に顔を向けた。
「騒がせた」
「い、いえ…」
私の肩に腕を回したまま、アドルファスさんは踵を返し歩き出した。
そのまま私も付き従う。
歩きながら後ろを振り向き、ファビオさんやミランダさんに会釈した。
「ありがとう。世話になった…なりました」
彼らは呆然としながらも手を軽く上げて手を振ってくれた。くだけた口調から丁寧語になったのは彼らの気持ちがそうさせたのだろう。