異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

55 ギャップと萌

「お願いです、アドルファスさん。常識知らずだった私が軽率な行動をしたのが原因なんです。だから、今回は私に免じて彼らを赦してあげてください」

アドルファスさんの次にクムヒム神官にも訴える。

「どうか彼らを罰しないでください。神殿の規律を乱すことになるかも知れませんが、どうかお願いします」

深々と頭を下げ懇願した。

「アドルファス様…」

困ったクムヒム神官がアドルファスさんに意見を求める。

「あなたがそこまで言うなら…今回は厳重注意だけで神殿内部でもそのように通していただけますか」
「……わかりました。私から掛け合っておきます」
「ありがとうございます」
「お礼はまだ早い。ユイナ殿がそう望まれていると伝えはしますが、実はこの件は聖女様と副神官長がご立腹でして」
「え?」

財前さんはわかる。でもなぜ副神官長まで。
意味がわからなくて答えを求めてアドルファスさんの方を向くと、何かを睨んでいる。

「あ、では私、財前さんに手紙を書きます。悪いのは私だから今回は大目に見てと。それから彼女に副神官長にもそう伝えてほしいと。聖女様が納得すれば副神官長もことを大きくはしないのでは?」
「そ、そうですね」

クムヒム神官もアドルファスさんの様子に緊張を走らせ、私の提案に賛同してくれた。

「アドルファスさん、私、手紙を書いてきます。クムヒム神官様、待っていていただけますか」
「手紙なら、隣の部屋に紙とペンがあります。ディーター、彼女に渡してやってくれ」
「畏まりました。ユイナ様、こちらへ」

ディーターさんについて行き、アドルファスさんの居間にある書き物机から筆記用具を借りることにした。

慌てて私のことを心配してくれたことに礼を述べ、今回のことで迷惑をかけたことを謝り、このことで誰も叱らないでほしい。副神官長にも財前さんからとりなしてほしいと書いた。
最後に潔斎の儀式の成功と財前さんの無事を祈っている。美味しいものを作って持っていくと書いた。

「よろしくお願いします」
「確かにお預かりしました」

書いた手紙は封筒に入れ、ディーターさんに教えて貰って蝋で封をした。

「助かった。礼を言う」

アドルファスさんが礼を言うと、クムヒム神官は首を振った。

「それが私の仕事ですから…それより以前お伺いしたのは半年前でしたか…暫く間隔が空いていたので安心しておりましたが、あまり無理はなさらないでください」
「お見送りいたします」

ディーターさんがクムヒム神官を見送りに行き、私とアドルファスさんと二人きりになった。

「今日は副神官長には会ったんですか?」

二人になるとすぐにアドルファスさんが訊ねた。

「いえ、会ったのは財前さんと、彼女に会いに来た王子だけです」
「そうか…」

それだけ言ってまた深く考え込んでしまう。
副神官長と何かあるんだろうか。

「あの、アドルファスさん、本当にもう大丈夫なんですか?」

普段どおりの顔色に戻ってきているが、あんな状態から一気に良くなるものなのか。

「クムヒム神官もいつもより軽いと言っていたでしょ」
「それはそうですけど…」
「それより、すみません。大事な日に」
「大事な日?」
「『恋人』になった第一日目なのに」
「は?」

『恋人』という言葉に周りを見て誰もいないことにホッとした。

「ユイナさん」
「え?」
()()()()よね」
「……え?」
「私の傷痕…」
「あ、は、はい」

見るなと言われたのに、言うとおりにしなかったことを怒っているのかも。そう思った。

()()をきちんと見たのは治療した治療師にクムヒム神官、それとレディ・シンクレアとディーターだけなんです。他の者は包帯を巻いたところを見ただけで、両親もまともには見ていません」
「ごめんなさい…でも面白半分で見たわけでは…」

プライベートに入り込み過ぎた。そう思って謝った。

「怒っているわけでは…『恋人』になるからには遅かれ早かれ見ることになります。でも弱っているところは見られたくなかった。まして吐いたものをあんな風に…」
「だからって、幻滅なんてしません。具合が悪い時は誰だってあります」

時に男性は弱々しいところを見られるのを恥ずかしいと思う。アドルファスさんもそう思っているんだろう。

「それでもあなたには頼りになる人間だと思われていたい」
「アドルファスさん、ギャップってわかりますか?」
「ぎゃ…っぷ?」

これも直接的には通じない。

「いつもしっかりしていて隙がない人が、いつもと違う顔を見せる。実は猫舌だったり、面白い寝言を言ったり、そんな一面を自分だけが知っている。自分だけに見せてくれる。自分だけに気を許してくれているというのが意外にキュンときて、萌なんです」

さらりとアドルファスさんが顔にかかる横髪をかき上げて耳にかける。そこにはまだ左顔面を覆う仮面があった。
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