異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
60 付き纏う影
『本当にあなたは何をやってもだめね』
『お兄ちゃんやお姉ちゃんはもっと出来たぞ』
『これくらいのテストで満点を取れなくてどうする』
『あなたは向先家の恥よ』
物心ついた頃から、いつも兄や姉と比べられていた。
兄や姉のように出来ないことがあると、ため息とともに両親は落胆する。その顔を見るのが辛かった。
いつも顔色を窺い、ビクビクしていた。
兄や姉が通っていた私立の名門校の小学部の試験に私は落ちた。前の日から体調を崩していたのに、そのことを言えず、途中で倒れてしまった。
そこから家の中での私の居場所はなくなった。
受験に失敗し、家から近い公立の小学校に通った。そこでどんなに頑張ってもテストで百点を取っても、褒められることはなかった。
次に挑んだ中学受験。中高一貫の名門校。兄や姉が通った学校よりレベルは落ちるが、何とか受かった。
―大丈夫。平気だよ。
そう自分で言い聞かせないとやっていけなかった。
でも高等部に進学した頃から成績は落ち、テスト勉強の徹夜がたたって、私はまた倒れた。
その時、優しくしてくれたのが保健室の先生だった。
『頑張ったね。偉い偉い』
話を聞いて彼女は頭を撫でてくれた。
それから時間を見つけては保健室を訪れるようになった。
保健室の先生になろうと思ったのもその時だった。
私と同じように気持ちをどこにも吐き出せず、日々を過ごしている子達に寄り添いたい。彼らの学校生活を少しでも楽しいものにしてあげたい。
もちろん、両親には反対された。
高等部を卒業して大学に進むにあたり、親が望む進路とは異なる選択をした。
私の意思が変わらないと知ると、両親は学費だけは出すから、後は勝手にしろと私を見限った。
それから両親にはまともに会っていない。
アルバイトを掛け持ちし生活費を稼ぎ、大学を卒業した。
卒業したことを知らせるため、卒業証書などを送ったが、両親からは何の連絡もなかった。
両親の代わりに兄と姉が何度か私を訪ねてきた。
『家族なんだから、たまには顔を見せに来たら』
『なんの意地を張っているんだ。わがままもいい加減にしろ』
『お父さんたちも許すと言っている』
私は許されないことをしたんだろうか。
両親や兄たちから見たら、私が自分で成りたい職業を見つけて目指すのが悪いことなんだろうか。
ただその道が家族が望む道でなかっただけ。
家族との対話はとっくに諦めていた。
私が何を思って何を望むのか。家族は知ろうともしない。自分たちが正しいと思い込み、ただ自分たちの価値観を押し付けるだけ。
今思えば、彼氏たちにもそんな態度だったかも知れない。
『何を考えているかわからない』
『不満があるなら言ってほしかった』
そんな言葉を最後に別れた。
はっと目が覚めて、目の前に人の体が見えて驚いた。
頭を動かすとアイスブルーの目と視線が会った。
「おはよう」
「お、おはよう…ございます」
―そうだ。夕べ私はアドルファスさんの部屋で
「い、いつから起きて…というか…寝顔…」
寝言を言ったりイビキとかかいていなかったか、急に気になった。しかも間抜けな寝顔を晒してたかと思うと恥ずかしい。よだれでも付いていないか口の周りを確かめた。
「何もついていませんよ」
私の様子を見てアドルファスさんが笑った。
「お、起きてたなら起こしてくれたら…」
「可愛い寝顔に見惚れてつい」
「か…かわ…」
いきなり朝から可愛いとか言われて眠気も吹き飛んだ。
「体の具合はどうですか?」
「お陰様で、すこぶる良好です。こんな清々しい目覚めは久しぶりです」
ちょっと大げさな気もするが、元気になったのなら良かった。
「あの…そろそろ私…自分の部屋に戻りますね」
「あ、待って」
そろそろとベッドから抜け出そうとするのをアドルファスさんが腕を掴んで引き止めた。
「え?」
「朝の挨拶がまだです」
「あ…」
そのまま抱き寄せ上から覆いかぶさるように唇を重ねてきた。
「……ん…」
朝の挨拶と言うには深い口づけ。食むように唇を覆い尽くし、舌が唇を割って縁を先端がなぞる。
首の後ろから回した腕を更に引き寄せ、もうひとつの腕が腰を引き寄せる。
大きくて力強い腕に抱き込まれて、抵抗するでもなく口づけを受け入れた。
夢の中で家族や元カレたちが出てきたのは、きっとアドルファスさんと彼の家族について話したからだろう。
彼の家族については色々聞いたのに、私のことは何も話さなかった。アドルファスさんも尋ねなかった。
彼のお母様のことは気の毒だとは思う。でもそれは深い愛情のせい。息子を心配するあまりにそうなった。
大変な怪我を負ったのは不幸だが、家族から愛され周りから期待と信頼を寄せられているアドルファスさん。
それに比べ私は出来の悪い子と家族からレッテルを貼られ見放されている。
大人になって家族から離れた今も、家族からの評価を気にしている臆病な自分。
違う世界に来てもなお、その影は付き纏っている。
けれど、アドルファスさんの腕に抱かれていると、そんな影が吹き飛んで自分も誰かにとって救いになってるんじゃないかという気持ちになった。
『お兄ちゃんやお姉ちゃんはもっと出来たぞ』
『これくらいのテストで満点を取れなくてどうする』
『あなたは向先家の恥よ』
物心ついた頃から、いつも兄や姉と比べられていた。
兄や姉のように出来ないことがあると、ため息とともに両親は落胆する。その顔を見るのが辛かった。
いつも顔色を窺い、ビクビクしていた。
兄や姉が通っていた私立の名門校の小学部の試験に私は落ちた。前の日から体調を崩していたのに、そのことを言えず、途中で倒れてしまった。
そこから家の中での私の居場所はなくなった。
受験に失敗し、家から近い公立の小学校に通った。そこでどんなに頑張ってもテストで百点を取っても、褒められることはなかった。
次に挑んだ中学受験。中高一貫の名門校。兄や姉が通った学校よりレベルは落ちるが、何とか受かった。
―大丈夫。平気だよ。
そう自分で言い聞かせないとやっていけなかった。
でも高等部に進学した頃から成績は落ち、テスト勉強の徹夜がたたって、私はまた倒れた。
その時、優しくしてくれたのが保健室の先生だった。
『頑張ったね。偉い偉い』
話を聞いて彼女は頭を撫でてくれた。
それから時間を見つけては保健室を訪れるようになった。
保健室の先生になろうと思ったのもその時だった。
私と同じように気持ちをどこにも吐き出せず、日々を過ごしている子達に寄り添いたい。彼らの学校生活を少しでも楽しいものにしてあげたい。
もちろん、両親には反対された。
高等部を卒業して大学に進むにあたり、親が望む進路とは異なる選択をした。
私の意思が変わらないと知ると、両親は学費だけは出すから、後は勝手にしろと私を見限った。
それから両親にはまともに会っていない。
アルバイトを掛け持ちし生活費を稼ぎ、大学を卒業した。
卒業したことを知らせるため、卒業証書などを送ったが、両親からは何の連絡もなかった。
両親の代わりに兄と姉が何度か私を訪ねてきた。
『家族なんだから、たまには顔を見せに来たら』
『なんの意地を張っているんだ。わがままもいい加減にしろ』
『お父さんたちも許すと言っている』
私は許されないことをしたんだろうか。
両親や兄たちから見たら、私が自分で成りたい職業を見つけて目指すのが悪いことなんだろうか。
ただその道が家族が望む道でなかっただけ。
家族との対話はとっくに諦めていた。
私が何を思って何を望むのか。家族は知ろうともしない。自分たちが正しいと思い込み、ただ自分たちの価値観を押し付けるだけ。
今思えば、彼氏たちにもそんな態度だったかも知れない。
『何を考えているかわからない』
『不満があるなら言ってほしかった』
そんな言葉を最後に別れた。
はっと目が覚めて、目の前に人の体が見えて驚いた。
頭を動かすとアイスブルーの目と視線が会った。
「おはよう」
「お、おはよう…ございます」
―そうだ。夕べ私はアドルファスさんの部屋で
「い、いつから起きて…というか…寝顔…」
寝言を言ったりイビキとかかいていなかったか、急に気になった。しかも間抜けな寝顔を晒してたかと思うと恥ずかしい。よだれでも付いていないか口の周りを確かめた。
「何もついていませんよ」
私の様子を見てアドルファスさんが笑った。
「お、起きてたなら起こしてくれたら…」
「可愛い寝顔に見惚れてつい」
「か…かわ…」
いきなり朝から可愛いとか言われて眠気も吹き飛んだ。
「体の具合はどうですか?」
「お陰様で、すこぶる良好です。こんな清々しい目覚めは久しぶりです」
ちょっと大げさな気もするが、元気になったのなら良かった。
「あの…そろそろ私…自分の部屋に戻りますね」
「あ、待って」
そろそろとベッドから抜け出そうとするのをアドルファスさんが腕を掴んで引き止めた。
「え?」
「朝の挨拶がまだです」
「あ…」
そのまま抱き寄せ上から覆いかぶさるように唇を重ねてきた。
「……ん…」
朝の挨拶と言うには深い口づけ。食むように唇を覆い尽くし、舌が唇を割って縁を先端がなぞる。
首の後ろから回した腕を更に引き寄せ、もうひとつの腕が腰を引き寄せる。
大きくて力強い腕に抱き込まれて、抵抗するでもなく口づけを受け入れた。
夢の中で家族や元カレたちが出てきたのは、きっとアドルファスさんと彼の家族について話したからだろう。
彼の家族については色々聞いたのに、私のことは何も話さなかった。アドルファスさんも尋ねなかった。
彼のお母様のことは気の毒だとは思う。でもそれは深い愛情のせい。息子を心配するあまりにそうなった。
大変な怪我を負ったのは不幸だが、家族から愛され周りから期待と信頼を寄せられているアドルファスさん。
それに比べ私は出来の悪い子と家族からレッテルを貼られ見放されている。
大人になって家族から離れた今も、家族からの評価を気にしている臆病な自分。
違う世界に来てもなお、その影は付き纏っている。
けれど、アドルファスさんの腕に抱かれていると、そんな影が吹き飛んで自分も誰かにとって救いになってるんじゃないかという気持ちになった。