異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
61 いつもと違う朝
唇を離し、アドルファスさんが上半身を起こす。
最後にキスで少し濡れた唇を舌先がチロリと舐める。その仕草に見惚れる。
「申しわけございません。よろしいでしょうか」と扉の向こうから声をかけてきた。
「え、ディーターさん…」
我に返って慌てて彼の体の下から抜け出してベッドから飛び降りた。
「うそ…ど、どうしよ…」
アドルファスさんの部屋でひと晩明かしたことが知られたら、確実にそうだと思われる。
でも逃げようにも、ディーターさんがいる場所を通らないと廊下に出られない。
慌てる私と反対にアドルファスさんは優雅に半身を起こし、片腕を突いてもう片方の手で乱れた自分の髪を掬い上げる。さらさらと長い髪が流れ落ち、光を受けて輝いた。
「入ってきても大丈夫だ」
外のディーターさんに聞こえるように少し大きな声を出す。
「ちょっ、ア、アドルファスさん」
「気にすることはありません」
「で、でも」
「おはようございます」
ディーターさんが部屋に入ってきて、私のことをチラリと見たが、何も言わずアドルファスさんに一礼する。
「旦那様、仮面は」
頭を上げてアドルファスさんが仮面を付けていないことに驚く。
「ああ…彼女には知っておいてもらおうと思って外した」
アドルファスさんがそう言うと、ディーターさんはまじまじと私の顔を見た。
「彼女には体の傷も見せた」
「え」
またもや驚きの声を発して食い入るように見つめてくる。
「お体の具合はいかがでしょうか。もしまだお加減が優れないようなら、休暇届を出しますが」
「大丈夫だ。すっかり良くなった」
「本当でございますか?」
アドルファスさんの返事が信じられないのか、驚いている。
「嘘をついてどうする」
「それはそうですが、いつも発作の後は快復まで最低でも二日は寝込まれていらっしゃったのに」
「クムヒム神官も今回は発作が軽いようだと言っていた。発作の苦しさはいつもと変わらなかったのに、最初はおかしいと思ったが、浄化を受けてもこれほど早く快復するのは初めてだ」
「私も驚いております。何か変化があったのでしょうか」
「単に魔素が薄まったとか…良くなっているのではないんですか」
アドルファスさんの部屋で一夜を明かした気恥ずかしさも忘れ、二人の会話に割って入った。いつもより快復が早いらしいが、アドルファスさんの体調が良くなっているなら、それでいいのではないだろうか。
「神官の力は抑えるだけで、すべてを消し去ることはできない。それが出来るのは聖女だけだ。発作の軽さで快復具合は違うが、完全に治療出来たわけではない」
「そうなのです。ですから驚いているのです」
「何が違うのか…」
アドルファスさんは顎に手を当ててじっと私を見る。
「アドルファスさん?」
「旦那様?」
「いや、何でもない。ディーター、支度をするから手伝ってくれ」
「畏まりました」
「あ、私も、部屋へ戻ります」
「ありがとう、ユイナさん」
部屋を出ようとした私にアドルファスさんがお礼を言った。
「私は何も…ただ付き添っただけです」
『付き添った』ことをわざとゆっくり言って強調する。
「そうだな。昨夜は」
アドルファスさんも『昨夜は』を少し強めに言う。
でも私が何もなかったことを主張したのに対し、アドルファスさんの言い方はこれからはわからないと、はっきり言っている。
匂わせる言い方に、ディーターさんの反応が気になって視線を動かす。
「ありがとうございます。私の立場から申し上げることではありませんが、これからもよろしくお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げられた。
「え?」
何をこれからもよろしくするのか。頭を下げたディーターさんのつむじを見つめる。
「レディ・シンクレアには私から話す」
「承知いたしました」
「あの、アドルファスさん…何を話す…って」
嫌な予感がして訊ねる。
「もちろん、昨夜のことだ」
「ゆ、昨夜の」
まさか同じベッドで一緒に過ごしたことをレディ・シンクレアに言う?
何もなかったとはいえ、彼女にどう思われるか。
「何を想像しているかわかるが、発作のことだ」
アドルファスさんは私の考えはお見通しのようだ。
「あ、そう…」
「もちろん、その後のことも…」
「え」
ということは、私がここで寝たことも?
「この家で起こったことはいずれ彼女の耳に入る。変に伝わるよりありのままを話しておいた方がいい」
「……」
「ユイナさんも一緒に今夜彼女に話そう」
「はい」
そのまま部屋に戻り、身支度をしてアドルファスさんと朝食を食べた。
アドルファスさんは仕事に出かけ、私は昼前にボルタンヌさんの所から届いた衣装と、ブラジャーの試作品について、彼女のところのお針子さんと意見を交わした。
話しているうちにレディ・シンクレアが帰ってきた。
最後にキスで少し濡れた唇を舌先がチロリと舐める。その仕草に見惚れる。
「申しわけございません。よろしいでしょうか」と扉の向こうから声をかけてきた。
「え、ディーターさん…」
我に返って慌てて彼の体の下から抜け出してベッドから飛び降りた。
「うそ…ど、どうしよ…」
アドルファスさんの部屋でひと晩明かしたことが知られたら、確実にそうだと思われる。
でも逃げようにも、ディーターさんがいる場所を通らないと廊下に出られない。
慌てる私と反対にアドルファスさんは優雅に半身を起こし、片腕を突いてもう片方の手で乱れた自分の髪を掬い上げる。さらさらと長い髪が流れ落ち、光を受けて輝いた。
「入ってきても大丈夫だ」
外のディーターさんに聞こえるように少し大きな声を出す。
「ちょっ、ア、アドルファスさん」
「気にすることはありません」
「で、でも」
「おはようございます」
ディーターさんが部屋に入ってきて、私のことをチラリと見たが、何も言わずアドルファスさんに一礼する。
「旦那様、仮面は」
頭を上げてアドルファスさんが仮面を付けていないことに驚く。
「ああ…彼女には知っておいてもらおうと思って外した」
アドルファスさんがそう言うと、ディーターさんはまじまじと私の顔を見た。
「彼女には体の傷も見せた」
「え」
またもや驚きの声を発して食い入るように見つめてくる。
「お体の具合はいかがでしょうか。もしまだお加減が優れないようなら、休暇届を出しますが」
「大丈夫だ。すっかり良くなった」
「本当でございますか?」
アドルファスさんの返事が信じられないのか、驚いている。
「嘘をついてどうする」
「それはそうですが、いつも発作の後は快復まで最低でも二日は寝込まれていらっしゃったのに」
「クムヒム神官も今回は発作が軽いようだと言っていた。発作の苦しさはいつもと変わらなかったのに、最初はおかしいと思ったが、浄化を受けてもこれほど早く快復するのは初めてだ」
「私も驚いております。何か変化があったのでしょうか」
「単に魔素が薄まったとか…良くなっているのではないんですか」
アドルファスさんの部屋で一夜を明かした気恥ずかしさも忘れ、二人の会話に割って入った。いつもより快復が早いらしいが、アドルファスさんの体調が良くなっているなら、それでいいのではないだろうか。
「神官の力は抑えるだけで、すべてを消し去ることはできない。それが出来るのは聖女だけだ。発作の軽さで快復具合は違うが、完全に治療出来たわけではない」
「そうなのです。ですから驚いているのです」
「何が違うのか…」
アドルファスさんは顎に手を当ててじっと私を見る。
「アドルファスさん?」
「旦那様?」
「いや、何でもない。ディーター、支度をするから手伝ってくれ」
「畏まりました」
「あ、私も、部屋へ戻ります」
「ありがとう、ユイナさん」
部屋を出ようとした私にアドルファスさんがお礼を言った。
「私は何も…ただ付き添っただけです」
『付き添った』ことをわざとゆっくり言って強調する。
「そうだな。昨夜は」
アドルファスさんも『昨夜は』を少し強めに言う。
でも私が何もなかったことを主張したのに対し、アドルファスさんの言い方はこれからはわからないと、はっきり言っている。
匂わせる言い方に、ディーターさんの反応が気になって視線を動かす。
「ありがとうございます。私の立場から申し上げることではありませんが、これからもよろしくお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げられた。
「え?」
何をこれからもよろしくするのか。頭を下げたディーターさんのつむじを見つめる。
「レディ・シンクレアには私から話す」
「承知いたしました」
「あの、アドルファスさん…何を話す…って」
嫌な予感がして訊ねる。
「もちろん、昨夜のことだ」
「ゆ、昨夜の」
まさか同じベッドで一緒に過ごしたことをレディ・シンクレアに言う?
何もなかったとはいえ、彼女にどう思われるか。
「何を想像しているかわかるが、発作のことだ」
アドルファスさんは私の考えはお見通しのようだ。
「あ、そう…」
「もちろん、その後のことも…」
「え」
ということは、私がここで寝たことも?
「この家で起こったことはいずれ彼女の耳に入る。変に伝わるよりありのままを話しておいた方がいい」
「……」
「ユイナさんも一緒に今夜彼女に話そう」
「はい」
そのまま部屋に戻り、身支度をしてアドルファスさんと朝食を食べた。
アドルファスさんは仕事に出かけ、私は昼前にボルタンヌさんの所から届いた衣装と、ブラジャーの試作品について、彼女のところのお針子さんと意見を交わした。
話しているうちにレディ・シンクレアが帰ってきた。