異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
66 異世界の性教育
「何を考えているんですか?」
頬にかかる私の髪をかきあげてアドルファスさんが尋ねた。
私の体に触れ、私の中を掻き乱した手。剣を握るからかゴツゴツしているのに、私に触れる時はどこまでも優しい。
「昨夜は素敵でした」
「私も楽しかった」
「お上手…なんですね」
嫌味ではなく、純粋な感想だった。
「あ、でも言いにくいなら…」
不遜な言い方に聞こえなかっただろうか。それに詮索するようで気が引けた。
「構いませんよ。きっと先生が良かったんでしょう」
「先生?」
「リングの話はしましたよね」
「はい」
「王侯貴族はリングを装着したら、手解きを受けます」
「手解き…え、もしかして、それって…あっちの手解き?」
「閨指南とでも言いましょうか」
つまりそういう教育を受けたから、アドルファスさんはうまいのか。
「主に王侯貴族の男子への手解きを生業にしている者がいます。女性たちも結婚を控えた令嬢や、ご婦人方が夫との夜の生活に役立てるために利用します」
風俗に通うのと似ているが、多分アドルファスさんの受けた教育はもっと本格的なものだろう。地球でもそういう風に言われる人はいた。いわゆる高級娼婦と呼ばれる人達。
オペラで有名な『椿姫』もそうだ。
「アドルファスさんは、そういう人に教えてもらったんですね。どんなことを教わるのですか?」
リングのことといい、初めて知ることばかりで興味深い。
「女性の体がどうなっているか、どこにどう触れれば気持ちいいと感じるのか。教えてもらって、それをものにできるかどうかは人によりますが、あなたが素敵だったと言ってくれるなら、私は生徒として優秀だったということでしょうか」
「そうかも知れませんね」
「気に障りましたか?」
ちょっと暗い顔になったのをアドルファスさんは見逃さなかった。
「あなたの世界とは常識が違って不快にさせたのなら…」
「違います。話してほしいと言ったのは私です」
「では、何が気になるんですか? 悪いところは直します。言ってください」
「違います。アドルファスさん…アドルファスに直すところなんてありませんよ。ただ…」
「ただ?」
「私が…私があなたに比べたら未熟で、あなたを満足させられないから…そういう教育を受けたなら、あなたの今までの相手も同じなら、私なんて、きっとあなたを満足させられない」
楽しかったと言ってくれたけれど、それは彼の優しさだろう。ただ私は彼に触れられ反応しただけで、彼を満足させる技術などない。
「それは違います」
今度は彼が否定する。
「聞いてください。私が楽しかったと言ったのは、それがあなたとだったからです」
背中に腕を回して抱き寄せる。
「指南は快楽を求めるためだけに受けるのではないんです」
「え?」
「大事な人を抱く時に、相手を喜ばせることができるように、技術を磨く。私は先生にそう教わりました」
「相手を…喜ばせる」
「そうです。心と体は密接な関係にある。気持ちひとつで同じ行為でも感じ方はまったく違ってくる。だから誠意をもって相手に尽くしなさい。それが先生の口癖でした」
思っていたのとは違って女性を抱く方法だけでなく、精神論までとは意外に奥が深い。
「それは自分も同じです。抱きたいと思った相手との行為はそれだけで何倍も幸せを感じる。技術や経験値ではないんです」
背骨に沿って手が腰へと下りていく。たったそれだけのことで体に戦慄が走る。
「私が、初めてでないと…わかりました?」
「はい」
初体験がアドルファスさんとだったら良かった。でもそれを今思っても仕方がない。
「がっかりしました?」
「がっかり? なぜです?」
「ここの事情がわからなくて…その…処女性って重要視されるのかなと…」
「ああ、そういうことですか…それは個人の考えによります。互いに婚姻前に性行為をせず、結婚後も貞操を貫くなら、男がこのようなものを付ける必要はありません」
「確かに…」
「拘る人もいますが、その経験があって、今があるなら、仕方がないことです」
意外にそこは寛大みたいだ。
「あなたは私の傷を見ても恐れなかった。吐瀉物も嫌悪せず受け止めた。誰にでもできることではありません」
「それは他の人でもできることです」
確かにアドルファスさんの傷は目を背けたくなる人もいる。ただそれは私だけが特別なわけではない。
「でも、異世界から来たユイナさんはあなただけです。この世界に聖女と訪れ私の目を釘付けにしたのはあなたです」
アドルファスさんの指が、腰の窪みに沿って一定のリズムで上下する。軽い触れ合いだが、体を重ね一夜を共にした男女の親しさを感じる。
それに加え、アドルファスさんの態度や表情から、私との行為に大変満足しているのがわかる。
私の男を見る目がないのか、ここまで大切に扱われるのは初めてだった。
「終わった後もこんなに優しいなんて、これも、指導通りなんですか?」
「え?」
もしそうなら、この世界というか、この国の性教育はかなりのものだ。本番だけでなく、事後の扱いまで懇切丁寧に教えているのだから。
「それともアドルファスさんの経験から学んだんですか?」
怪我のことを除けば、見た目がかなり極上なのだから、恋人は選び放題、向こうからアプローチしてきただろう。
だからこその今の彼があるのだけど。
この関係は永遠ではない。
彼がこれまで閨を共にした女性は一人や二人ではないだろう。万が一私が元の世界に戻った後、彼の傷痕に拘らない女性が現れたら、彼は私を抱いたようにその女性を抱くのだろうか。
頬にかかる私の髪をかきあげてアドルファスさんが尋ねた。
私の体に触れ、私の中を掻き乱した手。剣を握るからかゴツゴツしているのに、私に触れる時はどこまでも優しい。
「昨夜は素敵でした」
「私も楽しかった」
「お上手…なんですね」
嫌味ではなく、純粋な感想だった。
「あ、でも言いにくいなら…」
不遜な言い方に聞こえなかっただろうか。それに詮索するようで気が引けた。
「構いませんよ。きっと先生が良かったんでしょう」
「先生?」
「リングの話はしましたよね」
「はい」
「王侯貴族はリングを装着したら、手解きを受けます」
「手解き…え、もしかして、それって…あっちの手解き?」
「閨指南とでも言いましょうか」
つまりそういう教育を受けたから、アドルファスさんはうまいのか。
「主に王侯貴族の男子への手解きを生業にしている者がいます。女性たちも結婚を控えた令嬢や、ご婦人方が夫との夜の生活に役立てるために利用します」
風俗に通うのと似ているが、多分アドルファスさんの受けた教育はもっと本格的なものだろう。地球でもそういう風に言われる人はいた。いわゆる高級娼婦と呼ばれる人達。
オペラで有名な『椿姫』もそうだ。
「アドルファスさんは、そういう人に教えてもらったんですね。どんなことを教わるのですか?」
リングのことといい、初めて知ることばかりで興味深い。
「女性の体がどうなっているか、どこにどう触れれば気持ちいいと感じるのか。教えてもらって、それをものにできるかどうかは人によりますが、あなたが素敵だったと言ってくれるなら、私は生徒として優秀だったということでしょうか」
「そうかも知れませんね」
「気に障りましたか?」
ちょっと暗い顔になったのをアドルファスさんは見逃さなかった。
「あなたの世界とは常識が違って不快にさせたのなら…」
「違います。話してほしいと言ったのは私です」
「では、何が気になるんですか? 悪いところは直します。言ってください」
「違います。アドルファスさん…アドルファスに直すところなんてありませんよ。ただ…」
「ただ?」
「私が…私があなたに比べたら未熟で、あなたを満足させられないから…そういう教育を受けたなら、あなたの今までの相手も同じなら、私なんて、きっとあなたを満足させられない」
楽しかったと言ってくれたけれど、それは彼の優しさだろう。ただ私は彼に触れられ反応しただけで、彼を満足させる技術などない。
「それは違います」
今度は彼が否定する。
「聞いてください。私が楽しかったと言ったのは、それがあなたとだったからです」
背中に腕を回して抱き寄せる。
「指南は快楽を求めるためだけに受けるのではないんです」
「え?」
「大事な人を抱く時に、相手を喜ばせることができるように、技術を磨く。私は先生にそう教わりました」
「相手を…喜ばせる」
「そうです。心と体は密接な関係にある。気持ちひとつで同じ行為でも感じ方はまったく違ってくる。だから誠意をもって相手に尽くしなさい。それが先生の口癖でした」
思っていたのとは違って女性を抱く方法だけでなく、精神論までとは意外に奥が深い。
「それは自分も同じです。抱きたいと思った相手との行為はそれだけで何倍も幸せを感じる。技術や経験値ではないんです」
背骨に沿って手が腰へと下りていく。たったそれだけのことで体に戦慄が走る。
「私が、初めてでないと…わかりました?」
「はい」
初体験がアドルファスさんとだったら良かった。でもそれを今思っても仕方がない。
「がっかりしました?」
「がっかり? なぜです?」
「ここの事情がわからなくて…その…処女性って重要視されるのかなと…」
「ああ、そういうことですか…それは個人の考えによります。互いに婚姻前に性行為をせず、結婚後も貞操を貫くなら、男がこのようなものを付ける必要はありません」
「確かに…」
「拘る人もいますが、その経験があって、今があるなら、仕方がないことです」
意外にそこは寛大みたいだ。
「あなたは私の傷を見ても恐れなかった。吐瀉物も嫌悪せず受け止めた。誰にでもできることではありません」
「それは他の人でもできることです」
確かにアドルファスさんの傷は目を背けたくなる人もいる。ただそれは私だけが特別なわけではない。
「でも、異世界から来たユイナさんはあなただけです。この世界に聖女と訪れ私の目を釘付けにしたのはあなたです」
アドルファスさんの指が、腰の窪みに沿って一定のリズムで上下する。軽い触れ合いだが、体を重ね一夜を共にした男女の親しさを感じる。
それに加え、アドルファスさんの態度や表情から、私との行為に大変満足しているのがわかる。
私の男を見る目がないのか、ここまで大切に扱われるのは初めてだった。
「終わった後もこんなに優しいなんて、これも、指導通りなんですか?」
「え?」
もしそうなら、この世界というか、この国の性教育はかなりのものだ。本番だけでなく、事後の扱いまで懇切丁寧に教えているのだから。
「それともアドルファスさんの経験から学んだんですか?」
怪我のことを除けば、見た目がかなり極上なのだから、恋人は選び放題、向こうからアプローチしてきただろう。
だからこその今の彼があるのだけど。
この関係は永遠ではない。
彼がこれまで閨を共にした女性は一人や二人ではないだろう。万が一私が元の世界に戻った後、彼の傷痕に拘らない女性が現れたら、彼は私を抱いたようにその女性を抱くのだろうか。