異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
71 戦利品
「今日の外出はどうでしたか?」
食堂でアドルファスさんが私に尋ねた。
「はい、楽しかったです」
「それは良かった。何か良いものはありましたか?」
私の答えに満足して、アドルファスさんが微笑んだ。
「はい。それは今夜の食事でお披露目します。気に入っていただければいいんですが…」
「それは楽しみです。レディ・シンクレアは何かご存知なのですか?」
「私にも教えてくれないのです」
「言ったら驚きがなくなるではありませんか。こういうのはサプライズがいいんです」
「わかりました。楽しみにしています」
アドルファスさんがそう言って笑う。
ちょっと無駄に期待を煽りすぎたかな、とは思ったが、市場でそれを見つけた時の興奮を思い出して、きっと二人も驚いてくれるだろうと確信する。
いつもの料理に加え、私が教えた調味料を使ってルディクさんが手を加えた料理が並ぶ。
「このワイルドボアの肉がこれほど柔らかくなるとは」
「それは玉ねぎを剃って漬けたんです」
「魔法ではこんなことできませんわ。野菜というものがこんな働きをするなんて知りませんでした。これはなんですの? 口の中でホクホクしますわ」
レディ・シンクレアが深目のお皿に盛り付けたフライドポテトを指差した。
「それはフレンチフライ、フライドポテトと言います。一度低い温度の油で火を通して、後から高温で外側がパリッとなるように二度揚げしました」
低温で揚げる時もニンニクやハーブと一緒に揚げる。
「まあ、手間暇かかっているのね。外はパリっと中はホクホクしていていくらでも食べられるわ」
「レディの仰るとおりです。この赤いソースを付けるとまた味が変わります」
アドルファスさんはケチャップを付けて食べるのがお気に召したようだ。
「今度はそれを薄くスライスして揚げたものをお出しします。また食感が違って美味しいですよ。でもそちらは食事というよりスナック…間食感覚で食べる時が多いです」
「調理法が変わると同じ食材でもそんなに変わるのか…奥が深いものだ」
素直に喜んでくれるのを見ると嬉しくなる。
揚げたての鶏肉…コカトリスの唐揚げも、素揚げしてから醤油や砂糖の甘ダレをまぶしたものも、二人は喜んで食べてくれた。
「えっと、ここからが今回の戦利品の登場です」
厨房からルディクさんがワゴンを押してきたので、立ち上がった。
「それは何だ?」
「大きいわね」
ワゴンの上にあるものを見て二人が私に尋ねた。
「これはチーズです」
「チーズ? そんな大きいものを食べるんですか?」
運んできたのはパルミジャーノレッジャーノチーズを半分に切ったもの。
普段彼らが食べているのは食べやすいサイズに切ったものだから、驚くのも無理はない。
「これはこのまま食べるものではないんです」
私はチーズの横に置いた鍋から、油で炒めてスープで煮込んだリゾットをすくい上げた。
「それは?」
「ふふ、これはお米のリゾットです」
「お…こめ?」
「これは私の国では主食の穀物です」
そう、お米、お米がありましたよ。もちろんブランド米とはいかないどころか、うるち米よりはタイ米などに近い形だったし、家畜の餌として売られていたものだったけど、紛うことなくお米。
炊いておにぎりにするよりは、リゾットやパエリア、炒飯などの方が適していそうなので、今回は同時に見つけたパルミジャーノレッジャーノ(名前は違ったけど私はそう呼ぶ)と併せて使うことにした。
「ユイナさんが調理するのですか?」
「最初だけです」
「それをどうするの?」
「こうします」
私はすくったリゾットをチーズの側面に落とした。
「こうして熱いリゾットを乗せると、その熱でチーズが溶けます」
スプーンでリゾットを広げ、集めては広げを繰り返す。少しチーズが窪んできたので、溶けて絡んでいるのを確認する。
「もういいかな」
お皿に盛り付け、黒こしょうをかけて、二人の前に置いてもらった。
「どうぞ召し上がってください」
お米は芯が残るように火を通してもらったつもりだけど、果たして彼らの口に合うだろうか。
「珍妙な料理ですが、あなたが美味しいと思うなら、信用します。それに、あなたが盛り付けてくれたものですからね」
お皿を一度覗き込んでからアドルファスさんが言った。
未知の物に挑む躊躇いはわかる。私を信用すると言ってくれて、それもまた嬉しい。
スプーンの半分だけにリゾットを掬い、一気に口に持っていった。
「!!」
スプーンを口に入れた瞬間、アドルファスさんの目が大きく見開いた。
「もしかして、熱かったでしょうか?」
「…美味しい」
心配して尋ねると、スプーンを口から出して数回咀嚼して飲み込んでから、目を輝かせてこちらを見る。
「美味しい…ですか?」
「はい、チーズの味と匂い、それにこの歯ごたえ。柔らかいのに芯があって食べごたえがあります。コショウがいい刺激になっています」
「アドルファスの言うとおりです。ドロドロして気持ち悪いと思いましたが、いい意味で期待を裏切られました」
「良かった」
「もうひと皿もらおう」
「ルディクさん、お願いします」
私のやり方を見ていたので、次からはルディクさんにお願いする。
それから私もひと皿食べで、アドルファスさんは三回、レディ・シンクレアも三回おかわりをした。
食堂でアドルファスさんが私に尋ねた。
「はい、楽しかったです」
「それは良かった。何か良いものはありましたか?」
私の答えに満足して、アドルファスさんが微笑んだ。
「はい。それは今夜の食事でお披露目します。気に入っていただければいいんですが…」
「それは楽しみです。レディ・シンクレアは何かご存知なのですか?」
「私にも教えてくれないのです」
「言ったら驚きがなくなるではありませんか。こういうのはサプライズがいいんです」
「わかりました。楽しみにしています」
アドルファスさんがそう言って笑う。
ちょっと無駄に期待を煽りすぎたかな、とは思ったが、市場でそれを見つけた時の興奮を思い出して、きっと二人も驚いてくれるだろうと確信する。
いつもの料理に加え、私が教えた調味料を使ってルディクさんが手を加えた料理が並ぶ。
「このワイルドボアの肉がこれほど柔らかくなるとは」
「それは玉ねぎを剃って漬けたんです」
「魔法ではこんなことできませんわ。野菜というものがこんな働きをするなんて知りませんでした。これはなんですの? 口の中でホクホクしますわ」
レディ・シンクレアが深目のお皿に盛り付けたフライドポテトを指差した。
「それはフレンチフライ、フライドポテトと言います。一度低い温度の油で火を通して、後から高温で外側がパリッとなるように二度揚げしました」
低温で揚げる時もニンニクやハーブと一緒に揚げる。
「まあ、手間暇かかっているのね。外はパリっと中はホクホクしていていくらでも食べられるわ」
「レディの仰るとおりです。この赤いソースを付けるとまた味が変わります」
アドルファスさんはケチャップを付けて食べるのがお気に召したようだ。
「今度はそれを薄くスライスして揚げたものをお出しします。また食感が違って美味しいですよ。でもそちらは食事というよりスナック…間食感覚で食べる時が多いです」
「調理法が変わると同じ食材でもそんなに変わるのか…奥が深いものだ」
素直に喜んでくれるのを見ると嬉しくなる。
揚げたての鶏肉…コカトリスの唐揚げも、素揚げしてから醤油や砂糖の甘ダレをまぶしたものも、二人は喜んで食べてくれた。
「えっと、ここからが今回の戦利品の登場です」
厨房からルディクさんがワゴンを押してきたので、立ち上がった。
「それは何だ?」
「大きいわね」
ワゴンの上にあるものを見て二人が私に尋ねた。
「これはチーズです」
「チーズ? そんな大きいものを食べるんですか?」
運んできたのはパルミジャーノレッジャーノチーズを半分に切ったもの。
普段彼らが食べているのは食べやすいサイズに切ったものだから、驚くのも無理はない。
「これはこのまま食べるものではないんです」
私はチーズの横に置いた鍋から、油で炒めてスープで煮込んだリゾットをすくい上げた。
「それは?」
「ふふ、これはお米のリゾットです」
「お…こめ?」
「これは私の国では主食の穀物です」
そう、お米、お米がありましたよ。もちろんブランド米とはいかないどころか、うるち米よりはタイ米などに近い形だったし、家畜の餌として売られていたものだったけど、紛うことなくお米。
炊いておにぎりにするよりは、リゾットやパエリア、炒飯などの方が適していそうなので、今回は同時に見つけたパルミジャーノレッジャーノ(名前は違ったけど私はそう呼ぶ)と併せて使うことにした。
「ユイナさんが調理するのですか?」
「最初だけです」
「それをどうするの?」
「こうします」
私はすくったリゾットをチーズの側面に落とした。
「こうして熱いリゾットを乗せると、その熱でチーズが溶けます」
スプーンでリゾットを広げ、集めては広げを繰り返す。少しチーズが窪んできたので、溶けて絡んでいるのを確認する。
「もういいかな」
お皿に盛り付け、黒こしょうをかけて、二人の前に置いてもらった。
「どうぞ召し上がってください」
お米は芯が残るように火を通してもらったつもりだけど、果たして彼らの口に合うだろうか。
「珍妙な料理ですが、あなたが美味しいと思うなら、信用します。それに、あなたが盛り付けてくれたものですからね」
お皿を一度覗き込んでからアドルファスさんが言った。
未知の物に挑む躊躇いはわかる。私を信用すると言ってくれて、それもまた嬉しい。
スプーンの半分だけにリゾットを掬い、一気に口に持っていった。
「!!」
スプーンを口に入れた瞬間、アドルファスさんの目が大きく見開いた。
「もしかして、熱かったでしょうか?」
「…美味しい」
心配して尋ねると、スプーンを口から出して数回咀嚼して飲み込んでから、目を輝かせてこちらを見る。
「美味しい…ですか?」
「はい、チーズの味と匂い、それにこの歯ごたえ。柔らかいのに芯があって食べごたえがあります。コショウがいい刺激になっています」
「アドルファスの言うとおりです。ドロドロして気持ち悪いと思いましたが、いい意味で期待を裏切られました」
「良かった」
「もうひと皿もらおう」
「ルディクさん、お願いします」
私のやり方を見ていたので、次からはルディクさんにお願いする。
それから私もひと皿食べで、アドルファスさんは三回、レディ・シンクレアも三回おかわりをした。