異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

79 贈り物

部屋でアドルファスさんと二人待っていると、財前さんが副神官長と共に現れた。

「先生!」

財前さんは薄い透き通ったベールのようなマントを肩から羽織り、金のベルトの丈の長い白のドレスを着ていた。長い黒髪は両サイドを綺麗に編み込みし、後ろできっちりと纏めている。額には繊細な細工を施した金のサークレットをつけている。

「本当に聖女様だね」
「先生も素敵。そんなドレスも着てみたいな。見て私の服、白ばっかり」
「今夜は我慢してください。他の時ならどんな色のドレスでも着てかまいませんから」

財前さんの不満に副神官長が申し訳無さそうに言った。

「わかってます、こういうのはイメージだからね。聖女は清純で神々しい。私だってそう思うもの」
「ありがとうございます。そのように仰っていただき、助かります」

ちゃんと自分の求められる役割をきちんと理解している財前さんに副神官長が礼を述べた。

「ところで…」

ちらりと財前さんがアドルファスさんを見る。まだ少し彼が怖いのか、その顔は少し強張っている。

「先生に良くしてくださってありがとうございます」
「聖女殿にお礼を言われることではありません。私が好んで申し出たことです。私はこの役割をいただけて有り難く思っておりますから」
「そうみたいですね。先生のおかげで、│い《・》│ろ《・》│い《・》│ろ《・》いい思いをされているみたいで」
「はい。お陰様で。あなたがこの世界に召喚されなければこの出会いもなかった。感謝申し上げます」

それから私の肩を抱き寄せた。

「ユイナのことは私がきっちりお世話いたしますので、聖女殿はどうかお勤めに専念してください」
「呼び捨てですか。ずいぶん仲がいいんですね」
「そう見えますか」
「あ、あのアドルファス、さん?」

私たちの関係を匂わすような言い方に、慌てふためく。

「失礼いたします」

そこへさらに魔塔の二人がやってきた。ここへ召喚された時に見た魔塔主のマルシャルさんと、アドギンスさんだった。
宴の始まりに陛下が会場に集まった人たちの前で紹介してくれた後、この六人で揃って入場することになっている。

「レインズフォード卿、よろしいでしょうか」

二人と一緒に入ってきた男性がアドルファスさんに声をかけた。

「わかった。ユイナ、少し出てくる」
「はい」

その男性と一緒にアドルファスさんが出て行くのを見送った。

「お久しぶりです。ご息災でしたか?」

召喚の儀を取り仕切った魔塔主さんは、私に近づいてきて挨拶してくれた。

「はい。こうして何とか過ごしております」
「そうですか。良かった。不可抗力とは言え、あなたを巻き込んだことを申し訳なく思っておりました」

聖女召喚を命令したのは国王陛下で、彼はその命令に従ったまで。それでも責任を感じていてくれている。

「私のことより、まずは魔巣窟の消滅にご尽力ください。それが本来の目的ですから」
「そのように仰っていただけるとは・・ありがとうございます。魔巣窟消滅は全世界の悲願ですから、我々も誠心誠意挑む所存です」
「財前さん、聖女様のこと、護って差し上げてください」
「もちろんです。聖女殿の身柄の安全も大事な任務のひとつですから。ところで」

魔塔主は私の手首に視線を落とした。

「その腕輪はレインズフォード卿からですか?」
「え、どうしてわかったのですか?」

私が身につける物はすべてレインズフォード家のお金で賄われているのは誰でもわかることだけど、なぜ腕輪だけに注目されたんだろう。

「とても素晴らしいものですから。レインズフォード卿は、よほどあなたのことをお気に召されているようです」
「そうですか。今日いただいたばかりなのです」

アドルファスさんが私のことを大事に思ってくれていることはわかっているが、それを他の人に言われると照れ臭い。

「ですが、レインズフォード卿があなたをそこまで大事にされているとなると、元の世界へ戻りにくくなるのでは?」

魔塔主が周りの様子を窺い、耳を寄せてきた。

「方法が見つかったのですか?」
「まだ憶測ですが、方法が見つかったかもしれません。ですので、今は他の方に内密になさってください」
「アドルファスさん、レインズフォード卿にもですか?」
「はい」

「失礼いたします。そろそろ皆様会場へご移動いただけますでしょうか」

侍従が私たちを呼びに来て、アドルファスさんも戻ってきた。
皆で彼の後ろについて宴の会場に移動する。

「何もありませんでしたか?」
「え、ええ」
「本当ですか?」
「はい。あ、魔塔主の方から腕輪のことを褒められました」
「本当ですか?」
「私のことをとても大切に思っているんですねとも言われました」
「ちゃんと周囲に伝わっているようで安心しました」
「え?」
「腕輪の意味を話していませんでしたね」
「意味?」

その言葉に左手を上げて腕輪を見つめる。
贈り物なのだからそこに好意が含まれているのはわかる。でもそれはドレスや花も同じこと。
腕輪に特別な意味があったとは思わなかった。

「指輪や髪飾り、首飾りでも何でもいいですが、自分の髪や瞳の色をあしらった装飾品を贈り、相手がそれを身につけてくれると言うことは特別な関係だと知らしめることになります」
「え」

驚いて腕輪をもう一度じっくり見る。銀の土台に青い宝石。それはアドルファスさんの色。それを身につけている私は、何も言わなくても彼が私をそういう存在だと公言していることになる。

「でも・・私は」
「わかっています」

言いかけた私の唇に人差し指を当てて言葉を封じる。

「あなたがこの世界からいずれはいなくなるかも知れない。私があなたを特別だと公言しても、未来は保証されていない。それでも、私はこの想いを止められないし、隠すつもりもありません」
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