異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
88 聖女の能力
長い夢を見ていた気がした。
ひどく懐かしい。それでいて切ない。
「う…」
頭を動かすと鋭い痛みが襲ってきた。
「先生、目が覚めた?」
「財前…さん?」
顔を動かすと、私の顔を心配そうに覗き込む財前さんがいた。側には副神官長や魔塔主補佐もいる。
「良かった。私が誰かわかるんですね」
私が彼女の名前を呼んだことで安心している。
「ここは?」
見回すと見慣れない部屋にいることがわかった。
「ここは神殿の中です」
「神殿…あ、財前さん魔巣窟!」
なぜ彼女がここにいるのか。
「落ち着いて先生、先生は一週間も眠っていたんですよ」
「い、一週間?」
「何があったか、覚えていますか?」
そう聞かれて、眉間に皺を寄せて考える。
「私…王宮の宴に出ていて…」
「その宴で、先生は魔塔主に拉致されたんです。あ、元魔塔主ですね」
拉致され、荒野で目が覚めて、それから魔巣窟へと落とされたことを思い出した。
「私、どうして? あの人に確かに落とされたのに」
助かったのだとわかるが、落とされてからの記憶が曖昧だ。
「もう少し早くたどり着いていれば間に合ったんですが、すみません」
アドキンスさんが頭を下げて謝った。
「まさか王宮から拉致するとは思っていませんでした。ですが、今の王宮の結界は彼が手を加えたもの。容易に破れたのでしょう」
王宮には外から魔法と物理的攻撃に対して結界が張られている。またその結界の中でも研究室や許可を得た以外で魔法を使用することは禁止されていて、使えば直ちに通報が守備隊に行く。だが、それも彼は時間的余裕が出来るように手を加えていたそうだ。
「マルシャルが何か企んでいるのではと疑い、ずっと見張っていたのです」
「そうです。私もアドキンス殿からそれを聞いて、あの日、陛下にそのことを伝え、対策を取るところだったのです。ただ、彼が何を企んでいるのかまではわからなかった。しかしそれを察したのでしょう、あのような暴挙に出るとは。我々の判断ミスです」
話を聞くうちに徐々に彼が話したことを思い出した。
「最初に二人が召喚されたことが不思議でした。単なる事故なのか、それとも意図的なのか。ですが、あの時の魔法陣はマルシャルの手ですぐに消されてしまって、すぐには確認出来ませんでした」
アドキンスさんはそれで暫く様子を見ようと考えたらしい。
「『判定の玉』が割れたのも、あなたの過失なのか事故なのか、それもわかりませんでした。あの時、あなたのことも判定出来ていたなら、違う結果になっていたかもしれません」
「あの、あの人は…」
「魔塔の地下で魔法封じの鎖で拘束しております。何があったのか、あなたの話も聞かなければ決断をくだせませんからね。目が覚めるまで待つしかありませんでした」
マルシャルの言い分は大方私に語ったとおりだった。
「生贄など、この世界のどの国でも禁じられていることです。生贄を捧げて、仮に魔巣窟が一掃されたとして、誰も彼を讃えることはない。だから過去の魔塔主はその方法を行うことを躊躇ったのでしょう」
「聖女を召喚することも、一種の生贄だと思うけど。命をかけるかかけないかだけの違いでしょ」
財前さんがチクリと嫌味を言う。それには彼らも二の句が継げなかった。
「あの、そういえば、アドルファスさんは?」
彼の姿がないことを不思議に思った。
私が何日も目を覚まさなかったら、一番に心配してくれるであろう人がここにはいない。
「彼は陛下に呼ばれて今回の件の後始末をしているの。先生が目覚めたら教えてくれって言われているから、すぐに伝えるわ」
財前さんがそう教えてくれた。
「そう…」
何か腑に落ちなかったが、それだけ彼が頼りにされているからだろうと思った。
「私ね、夢を見たの」
「夢を?」
「そう、夢…だったのかな。夢の中で家族が出てきたの。私と財前さんがいなくなって大騒ぎしていた。財前さんが誘拐されて、私が巻き込まれたんじゃないかって」
「誘拐・・そんな風になっちゃうんだ。そうだよね。突然二人の人間が姿を消したんだもの」
ひと昔前なら神隠しだと騒がれただろう。
「それから、アドルファスさんが靄の中を泳ぐようにして私を助けに来てくれる夢」
暗闇にたなびく彼の銀髪が希望の光のように思えた。
「私、どうやって助けられたの?」
自分で這い上がった記憶がない。ならやはりアドルファスさんが?
「私達が駆付けた時は全身真っ黒になって地面に横たわっていたんです。どこが頭でどこが前か後ろかわかんなかったんですよ」
「真っ黒?」
「そう、あれが瘴気だったのかな、慌ててカザールさんと浄化しようとして、力を注いだら、突然先生が光りだして、あっという間に黒いものが小さくなっていって、ピンポン玉くらいになったの」
「ぴ?」
ピンポン玉が何なのかアドキンスさんとカザールさんには伝わらなかった。
「それはどうでもいい。要は先生を包んでいた靄がするするするって小さく濃縮されて、最後は消えちゃったの」
いちいち説明が面倒くさいのか財前さんは、彼らの疑問を無視して話を進めた。
「それで、摩巣窟は?」
「どういうわけか、濃度が薄くなって、あの後すぐに聖女殿に浄化していただきました」
「予定より少し早かったですが、ユイナ様のお陰です」
「私の?」
「ええ、あなたにも聖女様の浄化の力が宿っていました」
私にも聖女の力があった。
実感はないけど、アドルファスさんが発作を起こした時に何か力が発動したのだろうか。
「はっきりそれを証明するには『判定の玉』が必要です。それもマルシャルが修復すると言っておりましたが、偽物を用意して本物は修復せずに放置していたようなのです。ですから修復までまだ数日かかります」
「でも、私たちが駆けつけたときの状況を見れば、先生に浄化の力があるのは皆認めているわ」
何の力もないおまけだと思っていたのに、聖女だと急に言われて、私はこれからどうなるのだろう。
「もちろん、聖女と認定されたからには今までのようにはいきません。神殿でレイ様と共にお世話させていただきます」
「それは・・」
「レインズフォード家の後見は不要ということです」
ひどく懐かしい。それでいて切ない。
「う…」
頭を動かすと鋭い痛みが襲ってきた。
「先生、目が覚めた?」
「財前…さん?」
顔を動かすと、私の顔を心配そうに覗き込む財前さんがいた。側には副神官長や魔塔主補佐もいる。
「良かった。私が誰かわかるんですね」
私が彼女の名前を呼んだことで安心している。
「ここは?」
見回すと見慣れない部屋にいることがわかった。
「ここは神殿の中です」
「神殿…あ、財前さん魔巣窟!」
なぜ彼女がここにいるのか。
「落ち着いて先生、先生は一週間も眠っていたんですよ」
「い、一週間?」
「何があったか、覚えていますか?」
そう聞かれて、眉間に皺を寄せて考える。
「私…王宮の宴に出ていて…」
「その宴で、先生は魔塔主に拉致されたんです。あ、元魔塔主ですね」
拉致され、荒野で目が覚めて、それから魔巣窟へと落とされたことを思い出した。
「私、どうして? あの人に確かに落とされたのに」
助かったのだとわかるが、落とされてからの記憶が曖昧だ。
「もう少し早くたどり着いていれば間に合ったんですが、すみません」
アドキンスさんが頭を下げて謝った。
「まさか王宮から拉致するとは思っていませんでした。ですが、今の王宮の結界は彼が手を加えたもの。容易に破れたのでしょう」
王宮には外から魔法と物理的攻撃に対して結界が張られている。またその結界の中でも研究室や許可を得た以外で魔法を使用することは禁止されていて、使えば直ちに通報が守備隊に行く。だが、それも彼は時間的余裕が出来るように手を加えていたそうだ。
「マルシャルが何か企んでいるのではと疑い、ずっと見張っていたのです」
「そうです。私もアドキンス殿からそれを聞いて、あの日、陛下にそのことを伝え、対策を取るところだったのです。ただ、彼が何を企んでいるのかまではわからなかった。しかしそれを察したのでしょう、あのような暴挙に出るとは。我々の判断ミスです」
話を聞くうちに徐々に彼が話したことを思い出した。
「最初に二人が召喚されたことが不思議でした。単なる事故なのか、それとも意図的なのか。ですが、あの時の魔法陣はマルシャルの手ですぐに消されてしまって、すぐには確認出来ませんでした」
アドキンスさんはそれで暫く様子を見ようと考えたらしい。
「『判定の玉』が割れたのも、あなたの過失なのか事故なのか、それもわかりませんでした。あの時、あなたのことも判定出来ていたなら、違う結果になっていたかもしれません」
「あの、あの人は…」
「魔塔の地下で魔法封じの鎖で拘束しております。何があったのか、あなたの話も聞かなければ決断をくだせませんからね。目が覚めるまで待つしかありませんでした」
マルシャルの言い分は大方私に語ったとおりだった。
「生贄など、この世界のどの国でも禁じられていることです。生贄を捧げて、仮に魔巣窟が一掃されたとして、誰も彼を讃えることはない。だから過去の魔塔主はその方法を行うことを躊躇ったのでしょう」
「聖女を召喚することも、一種の生贄だと思うけど。命をかけるかかけないかだけの違いでしょ」
財前さんがチクリと嫌味を言う。それには彼らも二の句が継げなかった。
「あの、そういえば、アドルファスさんは?」
彼の姿がないことを不思議に思った。
私が何日も目を覚まさなかったら、一番に心配してくれるであろう人がここにはいない。
「彼は陛下に呼ばれて今回の件の後始末をしているの。先生が目覚めたら教えてくれって言われているから、すぐに伝えるわ」
財前さんがそう教えてくれた。
「そう…」
何か腑に落ちなかったが、それだけ彼が頼りにされているからだろうと思った。
「私ね、夢を見たの」
「夢を?」
「そう、夢…だったのかな。夢の中で家族が出てきたの。私と財前さんがいなくなって大騒ぎしていた。財前さんが誘拐されて、私が巻き込まれたんじゃないかって」
「誘拐・・そんな風になっちゃうんだ。そうだよね。突然二人の人間が姿を消したんだもの」
ひと昔前なら神隠しだと騒がれただろう。
「それから、アドルファスさんが靄の中を泳ぐようにして私を助けに来てくれる夢」
暗闇にたなびく彼の銀髪が希望の光のように思えた。
「私、どうやって助けられたの?」
自分で這い上がった記憶がない。ならやはりアドルファスさんが?
「私達が駆付けた時は全身真っ黒になって地面に横たわっていたんです。どこが頭でどこが前か後ろかわかんなかったんですよ」
「真っ黒?」
「そう、あれが瘴気だったのかな、慌ててカザールさんと浄化しようとして、力を注いだら、突然先生が光りだして、あっという間に黒いものが小さくなっていって、ピンポン玉くらいになったの」
「ぴ?」
ピンポン玉が何なのかアドキンスさんとカザールさんには伝わらなかった。
「それはどうでもいい。要は先生を包んでいた靄がするするするって小さく濃縮されて、最後は消えちゃったの」
いちいち説明が面倒くさいのか財前さんは、彼らの疑問を無視して話を進めた。
「それで、摩巣窟は?」
「どういうわけか、濃度が薄くなって、あの後すぐに聖女殿に浄化していただきました」
「予定より少し早かったですが、ユイナ様のお陰です」
「私の?」
「ええ、あなたにも聖女様の浄化の力が宿っていました」
私にも聖女の力があった。
実感はないけど、アドルファスさんが発作を起こした時に何か力が発動したのだろうか。
「はっきりそれを証明するには『判定の玉』が必要です。それもマルシャルが修復すると言っておりましたが、偽物を用意して本物は修復せずに放置していたようなのです。ですから修復までまだ数日かかります」
「でも、私たちが駆けつけたときの状況を見れば、先生に浄化の力があるのは皆認めているわ」
何の力もないおまけだと思っていたのに、聖女だと急に言われて、私はこれからどうなるのだろう。
「もちろん、聖女と認定されたからには今までのようにはいきません。神殿でレイ様と共にお世話させていただきます」
「それは・・」
「レインズフォード家の後見は不要ということです」