異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
97 広がる波紋
かつて毒を検出するために、銀が使われていた。
それは毒の成分が銀を硫化して変色させるからだ。
それと同じことが、アドルファスさんの股間のリングに起こっている。
肌の色が変わったことよりそっちに驚き、二人でじっとリングを見つめ、それから顔を上げて目を合わせた。
「フッ」
アドルファスさんが笑いを堪えきれず、吹き出した。
「フフフ」
私もつられて笑いだした。
「まさか、ここから毒素が出ていったとは…ユイナがいなければ、どちらにしろ毒は抜けなかったということか」
「どうやって毒が無くなったか…説明しろと言われても、できませんね」
「やってほしいと言われても、させるわけには行きませんから、言わないでおいた方がいいでしょう」
セックスしたら消えたとか、他の人にやってくれと言われても無理だ。
「そうですね」
アドルファスさん以外の人としろと言われても出来ない。
「それに、きっとこれはあなたと私だから…愛…の力かと…」
口に出して言うと恥ずかしい。愛しているとか、言い慣れていない。
「愛…ですか」
感慨深げにその言葉を噛みしめる。
「やはりあなたがここに、私の側に舞い降りてきてくれたのは、必然なんですね」
「そ、そうでしょうか」
私のことをいつの間にか「君」から「あなた」に呼び方が変わっている。
それってダークからいつものアドルファスさんに戻ったってことなのかな。
「もちろん、聖女の力がなくても、あなたのことは初めて会った時から特別なものを感じていました」
「……え?」
どういうこと?
「あなたを神殿や魔塔に預ける案も確かにありました。でも、私は聖女の意思を尊重するという大前提をあなたにも適用することを主張し、神殿や魔塔で肩身の狭い思いをさせてはと、あなたの後見を主張しました。レディ・シンクレアの名前を利用して」
アドルファスさんは私の手を恭しく取り、その甲に唇を寄せる。
「魔法陣の中に聖女レイと共に現れたあなたを見た時から、あなたに釘付けでした。一目惚れというものを信じていませんでしたが、恐らくそうなのでしょう」
「ひ、ひと…」
一目惚れ? アドルファスさんが私に?
「あなたの側にいたい。そんな下心がありました。でも私は独身ですし、妙齢の女性を引き受けるには説得力が必要でした。そこで祖母の名前を利用しました。彼女がひとつ屋根の下にいるなら、間違いは起こらないと陛下や周囲を納得させて」
彼女にはその日に見破られましたがね。
そういたずらを見つかった子供のように笑う。
「もちろん、あなたの意思が第一ですから、無理にそういう関係に持っていくつもりはありませんでした。でもあなたは私の仮面を忌避しなかった。望みはあると思っていました」
後は甘やかして自分に好意を寄せてもらうようにすれば。
「あなたとの生活は想像以上に楽しかった。一番驚いたのは食事です。あなたとの出会いは私のこれまでの人生を大きく変えた」
「そ、そんな・・」
「あなたが教えてくれたものは、我が家だけでなく、そのうちこの国の食事情を大きく変えていくでしょう」
「大袈裟な…」
飯テロ勃発な事態に軽く身震いする。
「大袈裟ではありません。レディ・シンクレアが彼女の友人たちに話しただけで、薔薇のジャムも砂糖漬けも、既に社交界に波紋を広げています。あなたが教えてくれた野菜やチーズ、米の料理もルディクが日々試行錯誤で新たな料理を作り出しています。聖女レイに差し入れしたことで、神殿や王宮、魔塔も興味を示していますから」
「え、そんな…」
私が意識を失っている間に、そんなことになっていたとは。
「この国であなたの功績は歴史に刻まれることでしょう」
「れ、歴史って…」
どんどん大事になってきている。
「でも、私にとって一番の功績は、私の心を虜にしたことでしょうね。これほどまでに誰かを愛しく思うことになるとは、恋に溺れる者の気持ちがようやく理解できました。あなたが生きてこの世界にいると思うだけで、見る景色が違って見える」
頬にチュッとキスをして、慈しむように頬を撫でる。
「ん…アドルファス」
またもや始まった甘い時間に私の胸は高鳴った。
真綿に包まれるような安心感。この人の腕の中にいれば何も怖いことはないと感じる。
「リングがこんな状態になってしまいましたから、もう一度つけ直す必要がありますね」
そう言って黒く変色した自分の股間のリングを見下ろす。
この世界での避妊具。
「つけ直すとか、出来るんですか?」
「聞いたことがありませんが…外すには神官の力が必要です。そして、きちんと装着するには、父に頼むしかないでしょう」
「では…」
「父を呼び戻すか、もしくは私が会いに行くか…来てもらうのは難しいようですから、行くしかないでしょうね」
アドルファスの両親。息子の怪我が原因で心を壊した妻を伴って領地で暮らす二人とは、五年前から会っていないと言っていた。
「大丈夫…私も一緒に行きます」
彼の手を握り、自然にそう言っていた。
それは毒の成分が銀を硫化して変色させるからだ。
それと同じことが、アドルファスさんの股間のリングに起こっている。
肌の色が変わったことよりそっちに驚き、二人でじっとリングを見つめ、それから顔を上げて目を合わせた。
「フッ」
アドルファスさんが笑いを堪えきれず、吹き出した。
「フフフ」
私もつられて笑いだした。
「まさか、ここから毒素が出ていったとは…ユイナがいなければ、どちらにしろ毒は抜けなかったということか」
「どうやって毒が無くなったか…説明しろと言われても、できませんね」
「やってほしいと言われても、させるわけには行きませんから、言わないでおいた方がいいでしょう」
セックスしたら消えたとか、他の人にやってくれと言われても無理だ。
「そうですね」
アドルファスさん以外の人としろと言われても出来ない。
「それに、きっとこれはあなたと私だから…愛…の力かと…」
口に出して言うと恥ずかしい。愛しているとか、言い慣れていない。
「愛…ですか」
感慨深げにその言葉を噛みしめる。
「やはりあなたがここに、私の側に舞い降りてきてくれたのは、必然なんですね」
「そ、そうでしょうか」
私のことをいつの間にか「君」から「あなた」に呼び方が変わっている。
それってダークからいつものアドルファスさんに戻ったってことなのかな。
「もちろん、聖女の力がなくても、あなたのことは初めて会った時から特別なものを感じていました」
「……え?」
どういうこと?
「あなたを神殿や魔塔に預ける案も確かにありました。でも、私は聖女の意思を尊重するという大前提をあなたにも適用することを主張し、神殿や魔塔で肩身の狭い思いをさせてはと、あなたの後見を主張しました。レディ・シンクレアの名前を利用して」
アドルファスさんは私の手を恭しく取り、その甲に唇を寄せる。
「魔法陣の中に聖女レイと共に現れたあなたを見た時から、あなたに釘付けでした。一目惚れというものを信じていませんでしたが、恐らくそうなのでしょう」
「ひ、ひと…」
一目惚れ? アドルファスさんが私に?
「あなたの側にいたい。そんな下心がありました。でも私は独身ですし、妙齢の女性を引き受けるには説得力が必要でした。そこで祖母の名前を利用しました。彼女がひとつ屋根の下にいるなら、間違いは起こらないと陛下や周囲を納得させて」
彼女にはその日に見破られましたがね。
そういたずらを見つかった子供のように笑う。
「もちろん、あなたの意思が第一ですから、無理にそういう関係に持っていくつもりはありませんでした。でもあなたは私の仮面を忌避しなかった。望みはあると思っていました」
後は甘やかして自分に好意を寄せてもらうようにすれば。
「あなたとの生活は想像以上に楽しかった。一番驚いたのは食事です。あなたとの出会いは私のこれまでの人生を大きく変えた」
「そ、そんな・・」
「あなたが教えてくれたものは、我が家だけでなく、そのうちこの国の食事情を大きく変えていくでしょう」
「大袈裟な…」
飯テロ勃発な事態に軽く身震いする。
「大袈裟ではありません。レディ・シンクレアが彼女の友人たちに話しただけで、薔薇のジャムも砂糖漬けも、既に社交界に波紋を広げています。あなたが教えてくれた野菜やチーズ、米の料理もルディクが日々試行錯誤で新たな料理を作り出しています。聖女レイに差し入れしたことで、神殿や王宮、魔塔も興味を示していますから」
「え、そんな…」
私が意識を失っている間に、そんなことになっていたとは。
「この国であなたの功績は歴史に刻まれることでしょう」
「れ、歴史って…」
どんどん大事になってきている。
「でも、私にとって一番の功績は、私の心を虜にしたことでしょうね。これほどまでに誰かを愛しく思うことになるとは、恋に溺れる者の気持ちがようやく理解できました。あなたが生きてこの世界にいると思うだけで、見る景色が違って見える」
頬にチュッとキスをして、慈しむように頬を撫でる。
「ん…アドルファス」
またもや始まった甘い時間に私の胸は高鳴った。
真綿に包まれるような安心感。この人の腕の中にいれば何も怖いことはないと感じる。
「リングがこんな状態になってしまいましたから、もう一度つけ直す必要がありますね」
そう言って黒く変色した自分の股間のリングを見下ろす。
この世界での避妊具。
「つけ直すとか、出来るんですか?」
「聞いたことがありませんが…外すには神官の力が必要です。そして、きちんと装着するには、父に頼むしかないでしょう」
「では…」
「父を呼び戻すか、もしくは私が会いに行くか…来てもらうのは難しいようですから、行くしかないでしょうね」
アドルファスの両親。息子の怪我が原因で心を壊した妻を伴って領地で暮らす二人とは、五年前から会っていないと言っていた。
「大丈夫…私も一緒に行きます」
彼の手を握り、自然にそう言っていた。