異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
98 驚きの事実
「ユイナ」
アドルファスさんが私の手を恭しく取り上げ、そっと握る。
「落ち着いたら、私と将来を誓ってくれますか?」
「え、それは…」
将来を誓う…それは。
「あなたしか考えられない。あなたとこの先も共にいるため、私にあなたの人生を託してください。きっと幸せにします。いえ、二人で幸せになりましょう」
「アドルファス…」
胸に熱いものがこみ上げ、涙ぐむ。
「はい。よろしくお願いします」
「愛しています」
「私も…愛しています」
引き寄せられるように唇を重ね、二人でしっかりと抱きしめあった。
その後、レディ・シンクレアが待っているサロンにと、二人で向かった。
一応混乱を避けるため、仮面は付けておくことにした。
「遅かったのね」
嫌味とも取れる言葉だったが、その表情は不安そうだった。
「体の方はどうなの?」
しっかりとした足取りで歩いてくるのを見て、いくらか安心した様子が窺える。
「実は…」
二人で顔を見合わせ、レディが座っている前のソファに腰掛ける。
俯いてハラリとアドルファスさんが仮面を外して、顔を上げた。
「!!!!!」
目を見開いて息を呑む音がした。
「……アドルファス…それは…」
彼女が驚いているうちに、手袋も外して袖を捲る。傷だけを残して肌の色が元の通りになっているのを見て、更に驚きの声が上がる。
「ユイナさん…なのね」
確信を込めた言葉にゆっくりと頷く。
途端に彼女の瞳からハラハラと涙が溢れ出した。
「レディ…おばあさま…」
両手で顔を覆い尽くし、泣き顔を見せまいとする彼女に駆け寄り、アドルファスさんがその細い肩を抱き寄せた。
「ああ…神様…生きていて良かった…」
気丈な彼女の弱々しいか細い声。張り詰めていたものが一気に緩んだのだろう。
「どうやったのかはあえて問いません。でも、あなただから、アドルファスを癒せたのね。もう一人の聖女では出来なかった」
「そのことなのですが…」
アドルファスさんが恥ずかしげに切り出す。
「今すぐ神殿に行って、それから父上に会わなくてはなりません」
「え?」
祖母に自分の股間の問題を話すのは気が引けたようだが、そこは彼女にも話しておかなければ納得しないだろう。
「例のリングが…その…」
アドルファスさんの説明を聞いて、さすがの彼女も口をポカンと開けた。
「あら…そう…そうなのね」
私とアドルファスさんを交互に見て、ひと言そう言った。
「いずれ彼女とはけじめをつけたいと思いますが、それなりに準備もありますし、今すぐ式を挙げることも無理でしょう」
「そうですね」
「式?」
「もちろん、あなたと私の結婚式です」
「え!」
いきなり結婚式の話に飛んで驚いた。
「アドルファス、きちんと彼女に話していないのですか?」
「あ、いえ…結婚は申し込まれましたが、式までは考えていませんでした」
「おかしな子ですね。女性なら誰でも夢見るものでは?」
「そ、そうですね。その、私は一緒にいられれば、形には拘らないので…」
「私の孫でレインズフォード家当主のアドルファスが、式も挙げず結婚したとあっては、我が家の名折れです。でもアドルファスの言い分もわかります。少なくとも準備に一年はかかりますからね。すでに一緒に暮らしているとは言え、子どもが先に出来るのはよくありませんから」
「い、一年!」
そんなに掛かるものなのかと驚く。
「でも、領地に行くと言うことは、アドルファス…」
「わかっています。母上にも会わないわけにはいかないでしょう」
まだ少し不安そうなアドルファスさんを見て、レディが幼子のように頭を撫でる。
「大丈夫?」
「はい、私にはユイナがいます。彼女がいてくれれば、母上とも向き合えそうな気がします。たとえ、母上が私のことを覚えていてくれなくても、もう逃げたりしません」
私の方を見て微笑む彼に、私も力強く頷く。
「お互いに生きて同じ国に、同じ世界にいるのです。まだ間に合ううちに、向き合わなければ、ユイナに顔向けが出来ません」
家族とこの先会える見込みがない私を想い、アドルファスは自分の逃げ腰になっていた生き方を考え直そうと思ったのだった。
「それに、ユイナのことを父上たちにも紹介しなければ、自分の義娘になるのですから」
「ふふ、あなたがそう決めたのなら、まずは手紙を書いて知らせてあげなさい」
「そうします」
もう一度、傷だけ残った頬を撫で、レディ・シンクレアはアドルファスを見つめた。
「私もまだまだ頑張りますわ。何しろ次のレインズフォード公爵夫人の教育をしなければ」
「公爵?」
私の疑問形にレディとアドルファスが不思議そうな顔を向ける。
「ええ、公爵家です。レインズフォード家はこの国で唯一の公爵ですよ」
「え…」
貴族階級のことは現代日本に馴染みのないものだったが、公爵と言うのは王族の次に偉い位ではなかっただろうか。
「その…他の人はアドルファスのことをレインズフォード卿と呼んでいたので…」
「そうだったかしら?」
「きちんと言ってませんでしたか?」
どこかで聞かされていたかも知れないが、記憶にはなかった。
そう言えば、もう一つ、はっきり聞いていなかったことがあることを思い出した。
「あの、そう言えば、アドルファスって今何歳なんですか?」
ここに初めて来た日に、私が二十九歳だとは話したが、彼がいくつかきちんと聞いたことがなったことを思い出す。
大人っぽいし、多分年上だとは思っているけど。
「ああ、それもお伝えしていませんでしたね。もうすぐ二十五歳になります」
「え!」
ということは今はまだ二十四歳?
まさか五つも年下だとは思わなかった。
アドルファスさんが私の手を恭しく取り上げ、そっと握る。
「落ち着いたら、私と将来を誓ってくれますか?」
「え、それは…」
将来を誓う…それは。
「あなたしか考えられない。あなたとこの先も共にいるため、私にあなたの人生を託してください。きっと幸せにします。いえ、二人で幸せになりましょう」
「アドルファス…」
胸に熱いものがこみ上げ、涙ぐむ。
「はい。よろしくお願いします」
「愛しています」
「私も…愛しています」
引き寄せられるように唇を重ね、二人でしっかりと抱きしめあった。
その後、レディ・シンクレアが待っているサロンにと、二人で向かった。
一応混乱を避けるため、仮面は付けておくことにした。
「遅かったのね」
嫌味とも取れる言葉だったが、その表情は不安そうだった。
「体の方はどうなの?」
しっかりとした足取りで歩いてくるのを見て、いくらか安心した様子が窺える。
「実は…」
二人で顔を見合わせ、レディが座っている前のソファに腰掛ける。
俯いてハラリとアドルファスさんが仮面を外して、顔を上げた。
「!!!!!」
目を見開いて息を呑む音がした。
「……アドルファス…それは…」
彼女が驚いているうちに、手袋も外して袖を捲る。傷だけを残して肌の色が元の通りになっているのを見て、更に驚きの声が上がる。
「ユイナさん…なのね」
確信を込めた言葉にゆっくりと頷く。
途端に彼女の瞳からハラハラと涙が溢れ出した。
「レディ…おばあさま…」
両手で顔を覆い尽くし、泣き顔を見せまいとする彼女に駆け寄り、アドルファスさんがその細い肩を抱き寄せた。
「ああ…神様…生きていて良かった…」
気丈な彼女の弱々しいか細い声。張り詰めていたものが一気に緩んだのだろう。
「どうやったのかはあえて問いません。でも、あなただから、アドルファスを癒せたのね。もう一人の聖女では出来なかった」
「そのことなのですが…」
アドルファスさんが恥ずかしげに切り出す。
「今すぐ神殿に行って、それから父上に会わなくてはなりません」
「え?」
祖母に自分の股間の問題を話すのは気が引けたようだが、そこは彼女にも話しておかなければ納得しないだろう。
「例のリングが…その…」
アドルファスさんの説明を聞いて、さすがの彼女も口をポカンと開けた。
「あら…そう…そうなのね」
私とアドルファスさんを交互に見て、ひと言そう言った。
「いずれ彼女とはけじめをつけたいと思いますが、それなりに準備もありますし、今すぐ式を挙げることも無理でしょう」
「そうですね」
「式?」
「もちろん、あなたと私の結婚式です」
「え!」
いきなり結婚式の話に飛んで驚いた。
「アドルファス、きちんと彼女に話していないのですか?」
「あ、いえ…結婚は申し込まれましたが、式までは考えていませんでした」
「おかしな子ですね。女性なら誰でも夢見るものでは?」
「そ、そうですね。その、私は一緒にいられれば、形には拘らないので…」
「私の孫でレインズフォード家当主のアドルファスが、式も挙げず結婚したとあっては、我が家の名折れです。でもアドルファスの言い分もわかります。少なくとも準備に一年はかかりますからね。すでに一緒に暮らしているとは言え、子どもが先に出来るのはよくありませんから」
「い、一年!」
そんなに掛かるものなのかと驚く。
「でも、領地に行くと言うことは、アドルファス…」
「わかっています。母上にも会わないわけにはいかないでしょう」
まだ少し不安そうなアドルファスさんを見て、レディが幼子のように頭を撫でる。
「大丈夫?」
「はい、私にはユイナがいます。彼女がいてくれれば、母上とも向き合えそうな気がします。たとえ、母上が私のことを覚えていてくれなくても、もう逃げたりしません」
私の方を見て微笑む彼に、私も力強く頷く。
「お互いに生きて同じ国に、同じ世界にいるのです。まだ間に合ううちに、向き合わなければ、ユイナに顔向けが出来ません」
家族とこの先会える見込みがない私を想い、アドルファスは自分の逃げ腰になっていた生き方を考え直そうと思ったのだった。
「それに、ユイナのことを父上たちにも紹介しなければ、自分の義娘になるのですから」
「ふふ、あなたがそう決めたのなら、まずは手紙を書いて知らせてあげなさい」
「そうします」
もう一度、傷だけ残った頬を撫で、レディ・シンクレアはアドルファスを見つめた。
「私もまだまだ頑張りますわ。何しろ次のレインズフォード公爵夫人の教育をしなければ」
「公爵?」
私の疑問形にレディとアドルファスが不思議そうな顔を向ける。
「ええ、公爵家です。レインズフォード家はこの国で唯一の公爵ですよ」
「え…」
貴族階級のことは現代日本に馴染みのないものだったが、公爵と言うのは王族の次に偉い位ではなかっただろうか。
「その…他の人はアドルファスのことをレインズフォード卿と呼んでいたので…」
「そうだったかしら?」
「きちんと言ってませんでしたか?」
どこかで聞かされていたかも知れないが、記憶にはなかった。
そう言えば、もう一つ、はっきり聞いていなかったことがあることを思い出した。
「あの、そう言えば、アドルファスって今何歳なんですか?」
ここに初めて来た日に、私が二十九歳だとは話したが、彼がいくつかきちんと聞いたことがなったことを思い出す。
大人っぽいし、多分年上だとは思っているけど。
「ああ、それもお伝えしていませんでしたね。もうすぐ二十五歳になります」
「え!」
ということは今はまだ二十四歳?
まさか五つも年下だとは思わなかった。