幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
その日、帰宅すると、見覚えのある黄金色が風になびいていた。
アンさんだ。マンション前で寒そうに身を縮める彼女に、思わず声をかける。
「アンさん」
「イチカ!」
私を見るなり、瞳を潤わせるので慌ててしまう。
「とりあえず、中に入りましょう」
貴晴さんは今日は接待で帰りが遅い。夕食もひとりなので、スーパーのお惣菜で済ませようと考えていたところだ。
部屋に入れると、アンさんは気まずそうに視線を逸らす。
「相変わらず、優しくしてくれるのね。 私、あなたには酷いことをしたわ。タカハルにも怒られた」
「外は寒いですから。放っておけなくて」
「お人好しね」
「それ、貴晴さんにも言われました」
私はわざと明るく話す。
誤解が解けた今、アンさんのことは特になんとも思わない。
たしかに彼女の言葉に惑わされて振り回されたけれど、その後きちんと謝罪の言葉ももらっているし、もう咎めるつもりもない。