幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない

「聞いてくれるの？」

「私でよければ話してください」

アンさんがぽつりぽつりと話し出す。

「彼と喧嘩したの。 きっかけは小さなことなんだけど、まあ、私が洗い物を後回しにしたのよ」

彼…彼氏いたのかアンさん。
しかも一緒に住んでおられる…？

「前に日本にいた時、ほら、タカハルのパーティーの時よ。 私がひとめぼれして、お付き合いしたの。遠距離だったけど、今回タカハルと一緒に日本に遊びに来て、今は彼の家に居候中。 こっちでできる仕事だしね。半年くらいいようと思ってたんだけど……喧嘩をして、家を出てきてしまったわ」

ああ、なるほど。それで、こっちで頼れる人が貴晴さん以外にいなかったのだろう。
偶然にも私が先に帰ってしまったわけだ。

「さっきから着信がすごいですけど、その彼氏さんからじゃないですか？」

「うぅ…そうなのよ。着信が30件、メッセージが56、ああ、まだ増えてるわ」

「心配されているみたいですし、返信してあげても…」

「だ、だって、『ママみたいに口うるさい男は嫌いよ！』って叫んじゃったのよぉ……」

わーお。なかなか辛辣。
アンさんは大雑把で末っ子気質、彼氏はマメで真面目なタイプか。
お皿洗いを後回しにして喧嘩……貴晴さんも私も、やらなきゃならないことは先に終わらせるから、性格が合っているのかもしれない。
喧嘩がない理由も、それなのかも。