幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「春だな」

貴晴さんの言葉に、思わず彼を見上げた。

「私も今、同じこと思ってた」

顔を見合せて笑う。同じ目線で、同じ感性を分かち合える瞬間は好きだ。

歩いていると、木々の緑の中に白い建物を見つける。
海の反対側のそこに、貴晴さんは私を連れてきたらしい。

「ここって…」

ここだけヨーロッパのような、別世界のような感じがする。
教会だろうか。貴晴さんが扉を開けると、そこは結婚式なんかで使われそうな神聖な雰囲気のチャペルだ。

ステンドグラスから天日が差し込み、明るく照らしている。

まさか、この展開は……

「一椛」

「は、はい」

貴晴さんの声が響く。
私は背筋を伸ばし、彼と向き合った。

「俺と結婚してくれて、ありがとう」

私の両手を優しく持って、私の大好きな声で紡ぐ。

「俺のすべてをかけて幸せにする。ずっと一緒にいてほしい」

ちょっと自信なさげなのが面白い。
私はにっと口角を上げて、彼の手を握り返した。

「末永く、よろしくお願いします」

「好きだ、一椛」

がばっと抱きついてくる貴晴さんに苦笑する。
和やかで良い雰囲気だったのに、いつもの貴晴さんに戻ったようだ。

「私も。大好き」

だけど私も、そっちのほうが安心する。
ぎゅっと貴晴さんの背中に手を回して、視線を合わせて応えた。
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