幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
タクシーを降りると、高層ホテルのエントランスに進む。
彼に言われた通りに貴晴さんの名前を告げると、速やかに案内された。
指定されたのは、上層階にあるフレンチレストラン、Cocoだ。
冬に近づき日が短くなってきた午後7時には、とても綺麗な夜景が楽しめることだろう。
おもてなしも一流の貴晴さんの計らいに、まだ会ってもいないのに胸がキュンとなる。
ふうと深呼吸し、ウエイトレスに促された席を見ると、見覚えのある背中が見えて息を呑む。
後ろ姿でもわかってしまう。
ずっと追いかけていた、私の大好きな人の逞しい背中だ。
「貴晴さん。 お待たせしてしまい申し訳ありません」
ああ。こうして彼の名前を呼ぶのも、7年ぶりのことだ。
「一椛! 俺もさっき着いたところだ。 それより、久しぶりだな。元気だったか」
彼の隣に腰を下ろすと、ふんわりとした柔らかい笑みを浮かべ、私の名前を呼ぶ貴晴さん。
胸がドキドキして、おかしくなりそうだった。
私を呼ぶ優しい声と、見つめる黒い瞳が変わっていないことに、ほっと安堵した。