幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない

エントランスから離れると、途端に静けさが覆う。
エレベータで1階分上に上がると、ふかふかの絨毯を進んで奥の部屋。

一応ノックをしてから、マスターキーを取り出して解錠した。

「一椛か? おかえり。少しは落ち着いたか?」

この部屋を自由に出入りできるのは、私と貴晴さんだけだ。
入ってきたのが私だとすぐにわかったようで、貴晴さんがこちらに向かってくる。

「あ、えっと、うん。気分転換になったよ。 それで、貴晴さんにお客さん…」

「タカハル! 久しぶりね、会いたかったわ!」

言うが早いが、彼女がふわりと甘い香りを漂わせて私の前に出る。
そのまま飛び込むように、貴晴さんの胸にまっしぐら。

私は驚いて、固まった。

タカハル……

「アン、おまえが来てくれたのか」

「ええ。お父様は仕事が忙しくて来られなかったの」

「そうか。 だが、どうして一椛と…」

貴晴さんが私を見て、尋ねる。
私はハッとして答えた。
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