幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「私、スタッフだと思われたみたいで。 引き際が分からなくて、そのまま案内してきちゃった」

「そうだったのか。ありがとう。 紹介するよ、彼女はオグズ アン。シンガポールで一緒に仕事をした仲間だよ」

シンガポールの、仕事仲間…。
貴晴さんが続けて、彼女を見やる。
ふたりの体はもうくっついてこそいないが、近い。
距離感が、どうしてもビジネスパートナーには見えなかった。

「アン、彼女は俺の奥さん」

「まあ! そうだったの。私、そうとは知らずに案内係をさせてしまったわ」

アンさんは大袈裟に驚いた表情をする。
私は慌てて笑顔を作る。

「いえ、私の方こそ申し訳ありません。ご挨拶が遅れてしまいました。 一椛と申します」

引き攣って、ないよね。

「よろしくね、イチカ!」

アンさんは言うなり、貴晴さんのほうを向いて楽しそうに話しかけている。
彼もまた、柔らかい雰囲気で応じるのだ。

私は俯いてしまいそうになるのを堪える。

ここに私の居場所はないように思えた。



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