幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない


アンさんに、妻だと紹介された。
私の胸には嫌なもやもやが広がる。

『あいつ、向こうに好きな人がいるんだと思う』

いつの日かの、晴臣さんの言葉が甦る。

向こうとは、言わずもがな貴晴さんが仕事のために渡っていたシンガポールのこと。

そしてその好きな人は、アンさんなのではないだろうか。

私の想像でしかないのはたしかだ。
けれど、ふたりの雰囲気が物語っていた。

ビジネスパートナー。公私共に、親しい間柄だったのだろう。

ふたりが話しているその空間は、私が介入できるものではなかった。

くっきりとした目鼻立ちで華やかなアンさんと並ぶ貴晴さん。ふたりの姿が、頭から離れない。

「…か、一椛、大丈夫か? 疲れただろう。1度外に出よう」

いけない。ぼうっとしていたらしい。
今はパーティーの真っ最中。今この場では、私は彼の妻なのだ。

「ごめんなさい。 大丈夫。でも、少し外の空気を吸ってきてもいい?」

「ああ。一緒に行くよ」

「ううん。貴晴さんは、ここにいて」

心配そうな表情のまま、貴晴さんは私についていてくれようとする。
けれど、主役はあちこちに引っ張りだこだ。
彼の肩越しに、貴晴さんを呼ぶ声が届く。
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