幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
ふぅ、と自然にため息が漏れて、慌てて辺りを見回す。
よかった、誰もいない。

と、思ったそばで、横から声をかけられる。

「イチカ。 また会ったね。私よ、アン」

「あ、アンさん! すみません、お見苦しいところを…」

「いいのよ! こういう場って、気疲れするもの」

本当はちがうけれど、彼女に本当のことは言えないので曖昧に頷く。

「ところで、イチカ。 あなたに聞きたいことがあるのだけど」

アンさんの声のトーンが変わった気がした。
彼女はこちらを見ずに言う。

私はひとり焦っていた。聞きたくない。本能的に、そう思った。

「イチカとタカハルは、恋人どうしなの?」

「えっ…」

そんなこと、聞いてどうするというのだろう。
あなたたちふたりが恋人どうしなら、私と貴晴さんがそうなわけがない。
実際、私の一方的な片思いなのだ。

「そうなの?」

「違い、ます。 私たちは、許嫁、というのでしょう。お互いが望んだわけでは…」

そう。望んだのは、私。
それが許嫁という形で叶っただけなのだ。
< 46 / 126 >

この作品をシェア

pagetop