幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「そう。 私、1ヶ月ほど日本に滞在することにしたの。 その間、タカハルを食事に誘ってもいい?」

アンさんがあからさまに声を明るくする。

私に聞くことじゃない。
いや、断りを入れておけば、あらぬ噂が立ったとしても、言い訳ができるのだ。
大手企業の社長のスキャンダルなんて、あってはならないこと。

「私に、駄目だという権利は、ありませんから」

ああ、嫌だ。
貴晴さんは、この人のことを好きなのだ。
ふたりは、私がいなければ今も、シンガポールで楽しく過ごしていたのだ。

…少しでもすっきりしたくて外に出たのに、ますます頭が重たくなってしまった。

アンさんが、私が1人になるのを待っていたのだと思うと、この話をしにきたのだと思うと、胸が苦しい。息がしづらい。この場にいたくない。もう帰りたい。

「懐が深いのね、イチカ」

アンさんの笑顔が怖い。
分かってるでしょう?と言わんばかりの態度だ。私は今、貴晴さんとの仲を邪魔しないでと牽制されたのだ。
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