幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「私、戻らなきゃ。失礼しますね」

精一杯の笑顔は、アンさんの顔が見えなくなるとすぐに崩れてしまう。

ダメだ。貴晴さんを、心配させてしまう。



パーティーの会場に戻り貴晴さんと合流したところまでは良かったものの、やはり私は笑顔の作り方を忘れてしまったらしい。

貴晴さんは私を見るなり、『さっきよりも顔色が悪い』と、私より辛そうな顔をした。

情けなくて、泣きたくなったけれど、ここで撤退するのは負けたような気がして嫌だった。
完全にわがままだけど、私は大丈夫だと言い張り、その後パーティーの終了時刻までしっかりと自分の役目を全うした。

その間は、誰にも顔色については突っ込まれなかったし、貴晴さんも何も言ってこなかったからちゃんと笑えていたと思う。

会場でアンさんの姿を見ることはなかった。


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