幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
私は何を必死に話しているのだろう。
貴晴さんはぽかんとしている。

「パーティーの日に聞いたのか。 こっちにいるって言っても、完全な休暇じゃないらしい。仕事も兼ねてるって。 なかなか時間も合わないし、それに、」

水を止めて、シンクに手をついた状態で見つめてくる。

「一椛がいるのに、頻繁に他の人と食事に行ったりしないよ。一緒にご飯食べたいじゃん」

「私と…?」

「ああ。 一椛と食べる飯がいちばん美味い」

くしゃりと破顔されて、私は目を逸らす。
顔が熱い。この人は私を喜ばせる天才だ。

「アンとは、仕事の話以外することないしな。それなら別に、電話でもメールでもできる」

「そっ、か」

じゃあ、アンさんのこの前の言葉はなんだったの?
私を試すような言い方をして、恋人は私だと言わんばかり。

だけど、今ので事態はひっくりかえった。
貴晴さんは、アンさんをビジネスパートナー以外の何者とも見ていない。

ふたりは、恋人どうし…ではないのだろうか。

私ははにかむように笑ってみせ、洗い物を再開させた。

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