幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
プロポーズとは、どんなシチュエーションですべきだろう。
クルーズをセッティングして、夜闇に浮かぶ月に照らされながら、100本のバラとともに片膝をつき、小箱を開けて……、そんなキザなこと、俺に出来るとは思えない。他を考えよう。
ひとまず、クリスマス。直近のイベントはそれだ。
だがあいにく今年は平日。しかし金曜だ。
朝から出かけることは叶わないとしても、仕事後にディナーに誘うことは出来る。
結婚してから、家事炊事を当たり前のようにこなしてくれている一椛への日頃の感謝も込めて、とびきりのレストランを予約しよう。
それから……
「…社長!」
大きな声で呼ばれてはっとする。
そうだ、仕事中だった。
といっても、今は取引先からの帰社途中で、車の中なのだが。
「佐原、悪い、ぼうっとしていた。どうした」
「いいえ。お疲れですか?とても難しいお顔をされていました」
「いや、大丈夫だ。少々、考え事をしていただけだ」
佐原が少しの間をおいて言う。
「奥様とのデートのことでも考えておられたんですか?」
なんだ、楽しそうだな、この秘書は。
「…ああ、まあ」
否定は出来ないが、仕事中に物思いに耽っていた上に理由が完全プライベートなこととなると、素直に肯定もしずらい。