幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
言ってから、少し後悔する。
その役目、立場は本来、私のものではないのだった。
貴晴さんの反応が、少し怖い。

「そうそう。俺は一椛にも肩の力抜いてもらいたいけど。 …パートナーになるんだ。これからは俺に遠慮はしない。不満や文句があればいくらでも言えよ。善処する」

彼は躊躇いなど見せることなくそう言った。
ぎこちなくならないように自然な笑顔を心がける。

「ありがとう。貴晴さんも、遠慮はなしね。窮屈な思いをさせないように精一杯努めるけれど、至らない部分があると思うから」

私の言葉に、貴晴さんが苦笑を浮かべる。

「だからそんなに気負うなって。俺と一緒にいるのに努力なんて必要ないだろ。俺にとっては、一椛が一椛のまま、笑って過ごしてくれればそれだけで十分なんだから」

貴晴さんが優しく笑う。
どこまでも優しいこの人に、私は無理をさせているのだろうか。

好きな人がいる人を、政略的に手繰り寄せた。
知っていながら、父には何も言わずにこの結婚を受けた私は、最低だ。

いくら政略結婚でも、私が嫌だと言えば破談にできないこともない。

それをしないで、彼の優しさをわがままに独り占めしようとするのは、どうしても好きだから。

幼い頃から、会わなかった間も、今も。

忘れられない初恋のせいだ。

卑怯な私を、彼には知られたくない。
どこまでもわがままな私が、彼を欲している。

私は曖昧に頷いて、瞬く都会の夜景に視線を移した。

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