幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
一椛も俺から目を離さない。
なんだ、そんなに見られると…いや、駄目だ。そんなことを言ってる場合ではない。

「貴晴さんこそ、大丈夫…?」

ふいに、一椛がよくわからないことを言う。
仕事の心配か?

「…? 大丈夫だよ。一椛と話せて、今なら空飛べる」

言いながら、何を言っているんだと自分にツッコミを入れる。
つまらない冗談を言って笑ってくれるような雰囲気ではないというのに。

一椛は「それなら、いいけど」と視線を逸らした。


車内はたしかに重苦しい感じだった。
俺が話しかけても、一椛は曖昧に頷くか、愛想笑いをするだけ。
ふたりっきりの逃げられない状況をもってしてもこうとは、俺が思っているより何倍も一椛の傷は深いのかもしれない。

俺は一株の不安を覚えながらも、一椛をリストランテでエスコートする。

フルコースを完食し、食後のティータイムだ。
いつもならコース料理は食べた気がしないのだが、今日は満腹感でいっぱいなのは、緊張しているからだろう。

俺は用意してきた言葉を頭の中で繰り返す。

「一椛。話がある」

一椛がビクリと肩を揺らす。

「はい…」

なぜか敬語なのを考える余裕はなかった。

「俺はおまえが世界で1番大切だ」

一椛が息を飲むのがわかる。
俺もいっそう鼓動が早くなった。

「一椛と結婚できて、俺は今幸せで堪らない。 おまえが笑った顔を、ずっと隣で見ていたい。 だから、おまえを不安にさせたこと、すまない」

「貴晴さん…」

一椛が俺の目を見てくれている。
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