幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
部屋にたどり着くと、気が抜けたのか体が早く横になりたいと訴えてくる。
俺の体は、結構ギリギリを保っていたらしい。
頭がふわふわと揺れてふらつきそうになるも、一椛の前でこれ以上かっこ悪いところを晒したくなくて、気力でどうにか自室のベットまで歩いた。
「ごめん。この後まだ、連れていきたいところがあったのに」
「また今度、復活したら連れて行ってよ。 今は治すことだけ考えて。 熱、測れる?」
体温計を受け取る。
吐き出す息が熱い。
「自分で出来る。伝染るから、一椛は向こうに行ってろ」
「駄目。貴晴さんは熱を出すと極限まで上がるでしょう。 寝ている間に何かあったらと思うと休まらない。そばにいさせて」
「…カッコつけさせろよ」
「はいはい、病人は余計なこと考えない。 私はカッコつけてクールぶってる貴晴さんより、素直に頼ってくれるほうが好きだよ」
何の気なしに言ったのだろう。
俺は一椛の顔を見て固まる。
一椛の顔が、熱のある俺よりも赤く染まりあがった。
「わ、わわ、今のなし! なし! あ、鳴ったよ。何度…うわ、やっぱり高い」
照れ隠しに早口で捲したてるのが可愛い。
にやにやと笑っていると、一椛は俺を睨んで部屋を出ていった。
「冷えピタ持ってくる! 大人しく寝てなさいよ!」
全然怖くないし、むしろ愛らしいのだから参った。
俺の好きな人は世話焼きなので、きっと付きっきりで看病してくれるつもりなのだろう。
告白…あれ、俺、好きって言ってなくないか?
そうだ。一椛が大切で、幸せにしたくて、誤解されたくなくて…そればっかりで、1番大事なことを言いそびれるとは痛恨のミス。
早く回復して、リベンジしなければならないな。
考えながら、襲い来る睡魔に身を任せるように、目を閉じた。