幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
私はお酌に一区切りつけると、自分で頼んだお酒を飲み干して、席を立つ。

まだ始まったばかりだけど、すでに疲れた。色んな意味で。

お店の外に出ると、冷たい空気が頬を撫でる。
深呼吸していると、ふいに横から声がかかった。

「おまえ、お人好しすぎ。 飲んだくれの上司なんかほっとけよ」

「そういうわけにもいかないでしょう。 誰かさんは、人に好かれすぎだけどね」

「はあ。助けてくれよ、もう戻りたくない」

「自分が行きたいって言ったじゃないの。音を上げるのが早すぎない?分かってたことでしょ」

「一椛のことしか考えてなかったから」

「そ、そう」

唐突にそういうことを言わないでほしい。
ドキドキしちゃうじゃない。

「もう帰る?」

「帰らないよ、まだ私食べてないもん」

「そうかあ、じゃあ、戻るか」

「うん。 ……貴晴さん」

「ん?」

言おうか、言うまいか。

「その、………う、浮気は許さないから!」

可愛くない。もっと可愛く〝独占欲〟を表現できるようになりたい…。

貴晴さんがにやっと意地悪な笑みをうかべる。

「嫉妬か? 安心しろよ。俺おまえ以外眼中にないからさ」

うぅ…左様でございますか!

私たちは少し時間差で、席に戻った。

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