幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「一椛」

頭上から、呆れたような声。

「貴晴、さん?」

「帰るぞ。 すまんが、先に抜けさせてもらう。今日はありがとう」

貴晴さんが、なんか言ってる。
それに、なんだか悲鳴みたいな…眠たすぎて思考が追いつかない頭で、「立てるか。まだ寝るなよ」という声を拾って、差し出された手を頼りに立ち上がった。

挨拶もそこそこに、気がついたら私はソファに寝かされていた。

目が冴えてきて体を起こすと、貴晴さんがコップに水を汲んでくれた。

「ごめん、もしかして私、寝てた…」

「ほんとに、俺も行ってよかった。 あんな無防備な顔、晒すことにならなくて」

貴晴さんが連れ帰ってきてくれたのか。
結局また、迷惑かけちゃったなあ。

「ありがとう、大変だったでしょ。酔っぱらいの介抱」

「まあ、自分で歩いてたし、おまえひとり抱えるくらいどうってことないけど。 大変なのは明日だな」

「え?」

「忘年会だぞ? 会社のやつらの前で、潰れる寸前のおまえを連れて帰ったんだよ、俺が」

そのシーンを、曖昧な記憶を頼りに想像して、それから私は青ざめた。
ふわふわしていた頭が一気に晴れていく。
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