幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「三郷くん。悪いけど、あなたと遊んでる暇はないの。 仕事は終わったの? だったら早く帰りなさい」

早くここからでなければ。多分もう、貴晴さんも仕事を終えている。

三郷くんの横を通り過ぎようとした。
ただでさえ狭い場所なので、人が2人並んでは歩けない。
押しのけるようにしたものの、彼の体に一瞬触れた右手はとられ、ぐいっと引っ張られる。

「逃がさないって言ってるでしょ」

痛い。腕、ちぎれるって。
完全にアウトな体制だ。バックハグ。体が密着している。

「離して」

「嫌です」

どれくらいの間、その攻防をしていたのだろう。
この部屋に正常に動く時計があるわけないし、スマホは通勤カバンの中。オフィスに置きっぱなしだ。

すると、私の後ろでドアがノックされた。

「誰かいるのか」

貴晴さんの声だ。
良かった。探しに来てくれたのだろうか。謝らないと。こんな展開はありえないと啖呵を切っておいて、今こんな場面だ。

「貴晴さ…――!」

三郷くんの手のひらが私の口元を覆う。
彼は後ろから私を抱きしめるように捕らえて離さない。
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