幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「しっ。 見られたらどうするの?」

耳元で囁かれて、背筋が凍った。
鳥肌が全身に広がる。声が出せない。

廊下で足音が遠ざかって行った。
私は絶望した。

「俺、ずっと四宮さんを見てました。入社してからずっと。四宮さんは美人で、高嶺の花だから、静かに見ているだけで我慢してたのに……なのに、急に結婚? 駄目だよ。それは見過ごせない」

私は首を振って、離して、と口の中で言う。

「ね、今日ここで仲良くしてくれたら、もう近づかないから。いいでしょ? 旦那にバレなきゃ大丈夫だって」

三郷くんの左手が、ゆっくりと胸の膨らみに下がっていく。

そういう問題ではない。
私は三郷くんに抱かれたくなんかない。
まだ、貴晴さんとキスもしていないのに。こんなことなら、あの日、貴晴さんが日本に帰ってきた日にすればよかった。恥ずかしがって逃げないで、せっかく想いが通じたのに。
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