すずらんに幸あれ!

顔を顰めてそう言うと、めるちゃんは「ぶはっ」と吹き出した。


「なにそれ、例えウケるんだけど。ちなみに、阿行(あぎょう)像と吽行(うんぎょう)像、どっちの方に似てるの?」

「吽行像」

「ファ〜〜〜ッ!!!(笑)」


真面目に答えると、めるちゃんは腹を抱えて大爆笑する。

そんな私たちのやりとりを見て、ゆずぴたちはやれやれと言った表情を浮かべた。

ツボに入ってしまっためるちゃんの前で、金剛力士像のポーズを再現していると、5限目の予鈴が鳴った。

体育館で遊んでいた1年の男子たちは、慌てて片付け始め、「やばっ、早く運動場行こうぜ!」と急ぎ足で次々と体育館を後にしていく。

その時、ちょうどすずくんがすれ違うように横を通り過ぎて行った。

彼とは一切目が合わず、私も話しかけようとは思わなかった。

本人も話しかけてくるなと言っていたし、きっと私のことなんてとっくに忘れているだろう。

しかし、すずくんの後ろ姿を見て、私はこう思った。


────すずくん、体操服の裏表逆じゃない?


体操服のことについて伝えたかったけれど、もう彼とは会うことも関わることもないため、知らないふりをしておいた。

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