すずらんに幸あれ!
『すずくん、起きて!朝だよ!』
『ん…あと1時間…』
『もうっ!1時間とか長──…きゃっ!?』
───…みたいな会話をして、ベッドに引き摺り込まれ、抱きしめられながら寝ていることに気づいたすずくんは、『何でお前がベッドにいるんだ…!?』とか、ラブコメにありがちなお約束の展開がなくて安心した。
実際にそんなことが起きたら、鳥肌が立つどころではなくなるだろう。
想像しただけでゾッとする。
くだらない妄想をしていると、すずくんが玄関で靴を履いているところに遭遇した。
「すずくん、もう学校行くの?」
「…いつもこの時間帯に家出てる」
「へー、そうなんだ。……い、いってらっしゃーい」
「……」
チラッと横目で私を見たすずくんは、そのまま家を出た。
「蘭ちゃーん、スズちゃんもう家出ちゃったー?」
すずくんの後に続いて、お母さんも玄関へとやって来る。
「うん、もう行っちゃったよ」
「あちゃーっ、マジか。蘭ちゃんさ、悪いんだけど、スズちゃんにお弁当持っていってあげてくれない?お母さん、もうお仕事行かなきゃだからさー」
「えー…」
「頼んだよ〜」
少々嫌な顔を浮かべるも、お母さんはすずくん用のお弁当を私に託して、我が家を後にした。
「……」
ぽつん…と1人取り残されて、手に乗せられたトートバッグを見つめながら、「どうしよう…」と心の中で呟いた。